零の旋律 | ナノ

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 シャルはチェス盤を取り出してきて、レストに見せる。

「ねぇねぇ、チェス出来る?」
「出来るけど」
「じゃあやろうよ!」

 すぐさま、シャルは白の光沢あるテーブルの上にチェスを並べる。

「僕が黒で、レストは白でいい?」
「あぁ」

 シャルとレストがチェスをやっている様子を氷室はベッドの上に座りながら眺めていた。保護者みたいだなと隣にいるアイは思いながらも口には出さなかった。

「うーん、レストって結構強いんだね」

 暫くしてから、状況はレストが有利に傾いていた。シャルは頭を捻って何処に置くのがいいかを考えるが、恐らく逆転することはなくチェックメイトまでもう少しだろう。

「そりゃま。外で遊んだりとかはあんまりしなかったからな」
「そいや氷室とはいつから一緒なの?」
「俺が小さいころからだ」
「へーそうなんだ、ん? ってことは氷室も小さいころからレストと一緒?」
「いや、最初っからあの姿だ」

 レストがそういうとシャルは好奇心に満ちた目で氷室を見る。

「そうなのー?」
「……契徒は契約している間は歳も取らないからな」

 氷室が答えると、シャルは目を丸くする。

「じゃあ氷室って今幾つ? ってかそれ計算するともう氷室っておじさんだよね」
「なっ――!」
「ってことだよね? レスト」
「少なくとも、40後半であることは間違いないな」
「やっぱおじさんだね」

 わなわなと氷室の身体が怒りで震えていた。契約をした契徒にとって年齢は大した意味をなさないことではあったが、それでもリティーエの民に態々実年齢を指摘されたいとは思っていない。

「なら、こいつは幾つだよ!」

 思わず叫んで、氷室は同じ契徒であるアイを指差す。

「俺は十九歳だよ」

 勝ち誇った顔でアイが答えるので氷室は懐から鋏を取り出した。慌てて逃げだしアイはシャルの後ろに隠れる。

「あはは、アイちゃん情けない―」

 シャルが無邪気に笑う。氷室はシャルの後ろに隠れられては髪の毛を切れないと渋々諦めて鋏を仕舞う。

「そうだ、俺が答えたんだ。シャルは何時からアイちゃんと契約しているんだ?」
「アイちゃんとは二年くらい前かな? 契約してって頼まれたから契約したんだ」
「それでいいんだ」

 レストはやや呆れ気味だった。契約をすることはすなわち、力と引き換えにその魂を差し出すことでもある。それを頼まれたから契約した、それだけであっさりと契約するものなのか、理解が出来なかった。
 シャルドネ=シャルアが暗殺者と知ってその存在が怖く思えたレストだったが、そもそも最初から色々と異常だったのがシャルだ。
 今さら暗殺者の肩書が増えた所で普段と変わらないように思えてならなかった。
 何より、此処が暗殺者の家だとは言うことは忘れていないがシャルが暗殺者だと言うことはふとすると忘れそうだった。それほどまでにシャルは無邪気で笑顔がよく似合っていた。

「チェックメイト」
「ぎゃー、負けたっ。も一回やろ?」
「また俺が勝つけど?」
「そんなことはないよ。次こそは僕が勝つから」

 しかし、結局シャルが一勝もすることはなかった。


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