V 「だけど――この街って確か圧政されているんだろ? この街の支配者に。だーれも反乱を起こそうとかそういった雰囲気全く見られないけど」 むしろ、反抗する意識を失わせ徹底的に従順させているようにレストには思えた。 「この街の支配者様が力に物を言わせて、自分に盾突くものを全て処刑してきたからでしょ」 「支配者、様?」 「そう。この街では支配者のことを様付けで呼ばないと、それだけで処刑の理由になるのよ」 「なっ……!」 驚愕するレストに、淡々とレイシャはこの街の――支配者が何故そこまでの権力を持っている理由を語る。 「何故って顔をしているのね。この街の支配者様は、契約者なのよ」 「契約者――」 その時、扉を乱暴に叩く音がする。 「何か?」 レイシャが返事をすると、やはり乱暴な声で返ってくる。 「現在支配者様に逆らった人物がいる、何処かに隠れていないか調べているんだ」 「そう、今開けるわ」 レイシャはレストを捕まえるように背後から両手首を抑える。 「私は私の安全を守るために貴方を憲兵につきだすけど」 万が一のことを考えて小声で問う。 「構わないさ。しかしアエリエは匿って欲しいな」 「それくらいなら。――私が普通に背後へ回っても構えも反射もしなかったところをみると、逃げ出す術でも心得ているのかしら」 「じゃなきゃ、捕まえるとわかってやってきた女相手に無防備にはならない」 「それならいいわ。アエリエ、二階の何処かにでも隠れてなさい」 レイシャの言葉にアエリエは急いで二階まで走る。 「おい! まだか」 「もう少し待って」 扉を開けないことに苛立った憲兵が声を荒げるが、対するレイシャの反応はいたって冷静で淡々としている。 レイシャは憲兵に返事をしながら、レストの手首を何処から取り出したのか縄で縛る。最初からこうなる展開を見越して、本を取りに行く次いでに縄を用意していた。 レイシャは縄で――自力で抜け出せないようにしっかりと縛り、扉を開ける。レストは縄抜けが出来る程度に緩く縛れよと内心思いつつ、レイシャがレイシャの身を守るためには縄が緩いことがばれるわけにはいかないのだろうと半分だけ納得する。 「支配者様に逆らった人物とは彼のことかしら」 扉を開け、憲兵に突き出すようにレストを前に出す。 憲兵は二人。顔を見合わせた後、頷く。 「ああ、そいつだ。どうして?」 「家の中に不審者がいたから捕まえて、縛っておいたのだけれど貴方達が支配者様に逆らった輩がいると聞いて、取りにいっていたの。それで扉が開けるの遅くなってしまったわ、御免なさい」 いかにも真実っぽく話す姿に、レストは嘘をつきなれているなと実感した。 レイシャの言葉を憲兵は疑うことはしなかった。目の前に支配者に不貞を働いた輩がいるのだ、連行すればいいだけ。他の部屋を調べる必要性はないし、万が一それで逃げられれば自分たちの立場も危うくなる。 [*前] | [次#] |