零の旋律 | ナノ

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「……シャル、俺にもわかるように説明しろ。契徒はこっちの情勢そんなに知らないんだよ」

 未だ状況を正確に理解できていない氷室が説明を求めると、誰も説明をまともにしてくれそうにない雰囲気だったため、仕方ないしにアイが説明した――というかシャルがその手の話を真面目に話すとは到底思えなかったのだ。

「さっき店で聞いたろ? 進んではいけない道があるって、で俺が、暗殺者一家が住んでいるって話もしただろう? それが此処って話」
「……つまりシャルは暗殺者だったのか?」
「そういうこと。シャルの本名はシャルドネ=シャルア。そこの黒いのはシャルの兄でベルジュ=シャルア。シャルア家の当主だ」
「……成程な、そりゃレストが驚くわけだ」
「さて、客人。どうして此処に?」

 ベルジュの言葉に、シャルがいつもの無邪気さで霊石が見たいから連れてきただけ、と答えた。

「成程な、まぁ好きにして構わないぞ――出来る、というのならばどれだけ眺めようが何しようが」
「――っ!」

 漂う不気味で圧倒的な気配、首に鎌が当てられているかのような錯覚に陥る程の力を氷室は肌で感じ取る。
 ――どうする……
 このまま実力行使に出て霊石を奪うか、それとも何もしないか。
 氷室は“力”を使っても、ベルジュに勝てるかどうか自信がなかった。それほどまでもシャルの兄は得体が知れないのだ。

「……シャル、サンキュ。一目でいいから霊石が見れてよかったわ」
「ほんと!? 僕もそういってもらえると連れてきたかいがあるよ」

 氷室の出した結論は何もしないことだった。いくら契徒が半不死の力を有していても、どうなるかわからない圧倒的力を感じてしまえば実力行使に出ることも叶わなかった。これが精霊石ならば別だ。氷室は全力で挑んだだろう。しかし霊石。万が一霊石を手に入れるために命をおとしてしまっては本末転倒だ。

「シャル、折角来たんだ、客人をお前の部屋に案内してやれ」
「うん、そうするーいこ!」

 相変わらず状況が読めないのか、読めてないのかシャルは笑顔で先導した。ベルジュは立ち去るアイへ一瞬だけ視線を鋭くする。逃げるようにしてアイはその場を後にした。
 誰もいなくなった霊石の前でベルジュが立っていると、ベルジュに一人の青年が近づいてきた。

「ベルジュ、何もそんなに驚かさなくても」

 青い髪を持った青年は苦笑する。ことの成り行きを最初から青年は見ていたのだ。

「最初から霊石を盗もうとした目的の奴がどうするかと思えば、案外冷静だったな」
「貴方がそんな好戦的な雰囲気をだしているからですよ」

 くすくすと青年苦笑する。

「……まぁ、それでも実力行使で来る可能性はあっただろう、何せ契約者と契約を結んでいる契徒は半不死な能力へているが故に死なないんだからな。その自信から向かってくるかもしれない」
「そうなったら貴方は真っ先に契約者を狙ったでしょうに」
「まーな。つーかお前も隠れていなくていいだろう、万が一何か会った時のために動けるようにしていたんだろうけど」
「勿論ですよ」

 青い髪の青年――アーティオは断言した。彼ら――レストと氷室は気がついていなかったが、もし氷室が強硬手段に出た時はアーティオもまた応戦出来るように潜んでいたのだ。


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