零の旋律 | ナノ

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 繁華街の中心でシャルは真っ直ぐに進んでいたところを右に曲がる。

「こっちこっち」

 そして、曲がってすぐの店を指差す。シャルは扉を開けて店内に入って行った。レストが店の前に掲げられている看板を見ると『飲食店レディーア』と描かれていた。そして今までのシャルの生活ぶりを現すように、看板と一緒に描かれているメニューの値段は普段のレストと氷室ならば手を出さない値段の店だった。おごりじゃなきゃ払えないぞとレストは思いながらも店内に足を踏み入れる。塵ひとつない程、磨かれた床は輝いているようだった。店内は昼時ということもあって非常に賑わっていた。

「四人入れるー?」
「はい、少々お待ち下さい」

 店員がすぐさま四人席を準備してから案内した。テーブルの上にあるメニューを見ながら、全員が料理を注文する。氷室は早く霊石を見たい心境にかられていたが、仕方ないと我慢をする。
 喧騒に耳を傾けていたわけではないが、料理が来るまでの間、偶々耳に入ってきた会話にレストは首を傾げる。

「なぁシャル」
「なぁーに?」
「なんか観光客とガイド? の会話が偶々耳に入ったんだけど、この街には進んではいけない道ってのがあるのか?」
「進んではいけない道? そんなのあったっけ?」

 偶々耳に入った会話――観光客とガイドの会話内容は、この街には進んではいけない道が存在して、そこにだけは絶対に踏み入れないで下さいとガイドが念を押しているものだった。一体何なのか、初めてルクセシア大陸にきたレストにとっては疑問と興味があった。
 しかし、この街に住んでいるはずのシャルは進んではいけない道に心当たりがないのか首を傾げる。

「あるよ」

 シャルは心当たりがなくてもアイには心当たりがあったようだ。

「どんな?」

 レストが食いついてきたので、どうするかアイは僅かに悩んでから口を開いた。

「この街に、暗殺者が堂々と一軒家を構えているんだよ、そこに繋がる道が進んではいけない道なんだ」
「あーそれは進みたくないな」
「何、此処に暗殺者住んでんのかよ」

 料理が来るまで手持無沙汰だった氷室も会話に加わる。

「あぁ。シャルア家が一軒家を構えているのが、このルクセシアなんだ。だから街に住んでいる人間は寄りつかないよ」
「シャルア!? あの有名な暗殺者一家のことか!?」

 別大陸出身のレストですら、“シャルア”その名字を耳にしたことがあった――まさか暗殺者がこの街に堂々と住んでいることは流石に予想していなかったが――それほどまでにシャルアの名は有名なのだ。

「へーそうだったんだ、進んではいけない道かー知らなかったよ」

 相変わらずシャルはニコニコしていた。そんな会話をしていると丁度いい時間つぶしになったのか、程なくして料理が運ばれてきた。料理はシャルが選んだ店なだけあって――値段が高いだけあって――上品な味わいで、美味しかった。既にレストと氷室が気にしているのに気がついていたのか無言のままシャルが全員のお会計を済ませた。

「なんか、俺……シャルに餌付けされているのだろうかという気分になってきたぞ」
「ははは」

 店を出た所で思わずレストが氷室に呟いた。氷室は乾いた笑いしか出てこない。


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