零の旋律 | ナノ

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「しゃ……」

 アイが止めるよりも早く、気がついたらシャルは男たちの間に立っていた。無邪気で無垢な少年にしか映らないシャルが近づいてきたことに男たちは警戒をするが、そんな警戒心すら無くしてしまうような笑顔をシャルは振りまく。

「ねぇねぇ――僕、久々に実家に帰りたいから遠回りされても困るんだ―諦めてくれない?」
「はぁ?」

 男たちは呆然とするが、シャルは至って本気だったため、呆然とされる理由がわからないようだった。

「おい――」

 レストはシャルの方へ向かおうとするが、それをアイが肩を掴んで止める。

「止めとけ」
「……わかった」

 もとよりシャルに助太刀が必要とは思っていないレストは、その場に留まる。

「だーから、諦めて欲しいって僕は言っているんだけど」

 それは、笑顔で告げられた最終通告に他ならない。だが、男たちが、それで撤退するわけはなく苛立ちを募らせる結果にしかならない。まずは状況を理解していない少年に痛い目を見てもらおうと標的を変えようとしたが、それよりも早くクナイが舞った。遅れて血が滴る。何が起きた――胸元に手を当てると、真っ赤に染まっていた。理解すると同時に男たちは殆ど同時に倒れる。

「あーあ。ちゃんと諦めて欲しいって言ったのに。僕の言うこと聞かないからだよ」

 床をぬらす血。動かない男たち。虫も殺せないような少年が、淡々と殺した。その事実が船員や船客をさらなる混乱と悲鳴に陥れようとする。
 何事もなかったかのように、笑顔でいるシャルが酷く不気味に感じられる。シャルは軽い足取りで船員の元へ近づくと、一瞬船員の身体が強張った。しかしそれに気がつく様子はない。

「あの人たち、元々ある犯罪組織の人間で、捕えたのを渡すと報奨金が出るから、貰っておけば―?」

 そんなことだけを告げたのだ。

「あ、殺してあることを心配するなら大丈夫だよー。生死問わずの判定が出ているから、殺したからって何か問題あるわけじゃないから」

 怯えた表情にそこで初めて気がついたシャルはやや見当違いのことを言ってから、軽やかな足取りでレストたちの元へ戻った。一瞬知らない顔であるケイには目を丸くしたが、気に止める様子はなかった。

「これで問題ないね―」
「あ……あぁ」
「もー折角の船出なのに気分害しちゃった?」
「いや、そういうわけではないが」
「そ、じゃあさー遊戯でもして遊ぼうよ!」

 レストの手を引いて――まるで楽しい玩具を見つけたように――その場から離れていく。アイはついていくか迷って結局ついていったので、その場には氷室とケイだけが残された。

「……なぁ、あいつは?」
「シャル、とかいう少年だ」
「ふーん。まぁ俺は野郎には興味ないんで、どーでもいいけどな」
「だろうな」
「じゃあ、俺はこれ以上野郎と会話していても楽しくないししつれーするよ」

 ケイは女性を探すわけでもなく、そんな素振りをしながら自室へ戻った。

「(なんて物騒な……)」


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