第四話:船旅 乗船して部屋に入ると、普段移動する時に取る安い部屋とは比べ物にならないほど設備が整っていた。思わずレストは感激する。備え付けのクローゼットに上着を脱いで掛けていると汽笛が鳴り、地面に足がついてないような感覚が徐々に訪れる。 出航からしばらく時間がたってから甲板に氷室と一緒に出ると、そこには見覚えのある顔が女性をナンパしていた。氷室は顔を顰めて船内に戻ろうとしたが運悪くそれより早く声をかけられる。 「よぉ。あ、ちょっと待ってて」 女性に手を振ってから、ナンパをしていた人物――ケイが氷室とレストに近寄ってきた。これ幸いと女性はそそくさと逃げて行った姿を目撃したレストは、ナンパ失敗したのかと思うと、自然と笑いがこみあげてきたが、寸前の所で笑声だけはこらえた――ケイの視線を感じたから。 「ケイ……お前なんで此処に?」 「いやぁ、だってあの街にいたら殺されそうだったしー近くの街も危ないだろ? ってなると船で別大陸にいってしまうのが一番確実だろ」 へらへらと氷室の肩に手をまわしてから耳打ちした。 「所で、俺が見せた写真の彼女、見かけたか?」 「……まだだ、第一そんなすぐに見かけるわけないだろう」 「だよなぁ。まぁ見かけたら宜しく」 鬱陶しく氷室が腕を払うと、ケイはそれを気にした素振りもなく口元に笑みを浮かべていた。氷室にとってケイと再会するのは予想外の出来ごとであった。何故ならその場限りで今後出会うこともないだろうと思っていたが故に、情報交換した際の一目惚れした彼女を見かけたらケイに教えるという約束を、そもそも守るつもりは最初から無かったのだ。口約束だ、破ればいいと氷室は思っていた。にもかかわらず、遭遇するとは全くの予想外だった。 一度あることは二度ある。またいつか遭遇する可能性も視野に入れていた時だ、甲板の船首方向が騒がしい。此処からでは客室への入り口が邪魔をして見えない。立て続けに銃声が響いたので何事かと三人は顔を見合わせてからその場に向かう。途中で船首方向の甲板に出てきたシャルとアイに遭遇する。 「――!?」 その時、誰かが息をのんだ。 「どうしたんだ? ケイ」 「……ん、あぁいや何でもない……つか物騒だなぁ」 「本当だよ。出航して怱々……」 レストは嘆息する。三人組の男たちが銃を構えて船員を脅していたのだ。船の行き先を変えろ、と叫んでいる。船の行き先は男の叫びから推測するに、船が向かう場所とは正反対だ。脅してまで、そこへ向かいたい理由は皆目見当がつかなかったが、正反対の方向へ移動されてしまっては困る。さて、どうしたものかとレストと氷室が思案するよりも早く――シャルが動いていた。 [*前] | [次#] |