第三話:観光 翌朝、やはり氷室とレストが泊る予定だった宿とは月とすっぽんの違いがありそうな豪華な朝食にありついてから――朝だからお代わりするほど食欲旺盛ではなかった――港へ向かって船のチケットを四人分購入しようと窓口へ並ぶ。 「えっと一番や……」 「一等部屋四人分宜しくー!」 一番安い部屋を、と言おうとしたレストの言葉を遮ってシャルが無邪気に言い放った。 レストはそんなお金持ち合わせていないという視線を送るよりも先に、シャルが四人分の代金を支払ってしまった。 「……後から払えって言われたって払えないぞ」 チケットを氷室に渡すシャルに向かってレストは半ばシャルが実は何かを企んでいるのではないかという気分になってしまう。むしろ疑うのも無理からぬことである。 「ん? あぁいいよいいよ気にしなくてー。だって一緒の方が楽しいじゃん」 にこやかなシャルに対して、氷室はアイの首根っこを掴んで無理矢理自分の方向へ顔を寄せて耳打ちをする。 「おい、あいつは金銭感覚がおかしいのか? それともお金に執着しないやつなのか?」 「……両方じゃないか?」 アイにとっても仲間でも何でもない相手の分までの料金を払うのは聊か何とも言えない気分になる。 「そしてあいつは金持ちか?」 「……それについてはシャルの実家へ行けばわかる」 何故か言葉を濁したアイだったが、氷室は深く考えないことにした。いざとなれば飛んで何処かへ行けばいいだけである。最も船を使わないで移動するには骨が折れるからやらないだけだ。 「じゃあ、出航時間までまだ時間あるし、自由行動にしよっか!」 代金を支払ってもらって――しかも一番豪華な部屋を用意してくれた以上、誰もシャルに逆らうなんて異論はなく、いつの間にかシャルに主導権が握られていることに関して誰も文句をつけることなく、自由行動の時間になった。 氷室と観光をしようと思ったレストだったが、 「ひむ……」 「ちょっと、見てきたいところあるから一人行動するわ」 誘う前に断られてしまった。そして、その際迷子になるな、道に迷ったら意地で辿りつこうとするな人に道を聞け、地図も渡しておく、待ち合わせ時間の一時間前には戻ろうと意識しろとやたら念には念を入れられたレストだった。だったら最初から一緒に行動してくれればいいのにと思う。言葉には出さないが、顔には表れていたかもしれない。 シャルとアイは怱々にいなくなってしまったため、レストは一人で街を回ることにした。普段、観光地を訪れても観光をすることはないし、余分なお金を持ち合わせているわけではないから余裕もない。それに普段はどんな街だろうと情報収集が優先でのんびりと観光することは中々出来なかった。 目新しいものも多く買い物をしなくても、観光をするのは楽しかった。あちらこちらへと視線を忙しなく動かしていると、見知った顔が店から出てくるのが見えた。急いで近づいてみると、その店は沢山の書籍を取り扱っているようだった。成程、と頷く。 [*前] | [次#] |