零の旋律 | ナノ

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「アイちゃんが出かけたなぁと思って庭園見たら氷室もいたからね」

 氷室の怪訝な顔を見抜いたシャルは補足する。補足されたからと言って、そのことに意味はなかった。何故ならば、出かけた先が判明されていたことには変わりない。

「そうか」
「うん」
「……そうだ、忘れていた」

 氷室はシャルに見抜かれていた寒気を隠すようにアイの方へ勢いよく振り返る。
 悪魔のような微笑み、アイは嫌な予感しか覚えられず、逃げるように後ずさりをするよりも早く――何処にそんな瞬間能力を秘めていたと言わんばかりの素早さでアイの背後を取り、左手に鋏、右手はポニーテールにしているアイの髪を掴んだ。

「何!? 何をするんだ!?」
「お前の髪を切る」
「は!? 待て、なぜそうなる!? ってか何故鋏常備!?」

 困惑するアイと、氷室の目的に感づいたレストは氷室を止めようと動き出すが、こういった時の氷室は素早い。鋏を奪おうとするレストの手を軽々と交わす。その度にアイの髪が引っ張られ、痛いとアイが叫ぶ。

「男のくせに長ったらしい髪しているんじゃねぇ!」
「個人の自由だろ!?」
「お前が長髪だとレストも長髪のままになるんだよ!」
「どんな理屈だ!?」
「俺は髪切らないぞ!」

 滅茶苦茶な言いがかりだと叫ぶレストとアイの抗議を氷室は華麗に無視する。

「お前が暴れるとそれだけ変な髪型になるぞ!」

 暴れなかった所で、氷室がまともに切ってくれるとは到底思えないアイは身体を捻らせて逃げようとするが、がっちりと何故か挟まれてしまい逃げられない。

「オイ! 離せ!」
「あぁ離してやるよ。髪を切ったらな」
「シャル、助けてくれ!」

 頼れるべきはシャルだけだと助けを求める。
 鋏を奪うのをまだ諦めていないレストもぴょこぴょこと飛び跳ねていたがいかんせん氷室の方が上手で奪えない。
 氷室の鋏がアイのポニーテールで縛っている部分を切ろうときたとき、氷室の手首に紐が巻きついていくら力を込めても鋏がそれ以上動かなくなる。

「シャル、離せ。丁度アイの髪を切れる機会だ」
「んーよくわからないけど、アイちゃんが助けてっていったし」

 可細い腕の何処にそんな力があるのだろうかと思うほど、氷室がいくら腕に力を込めようともびくともしなかった。

「ってか第一なんで氷室は髪を切ろうとするのー?」
「俺は、髪の長い男を見ると切ってやりたくなるんだ」
「レストも髪長いけど?」
「あれもいつか切る」

 断言する氷室に抗議の視線をレストは送るが、氷室はどこ吹く風で流した。

「じゃあ、とりあえず今日は保留にしようよ。もう夜も遅いし、よい子は寝る時間だよー」
「……わかったよ」

 この面子が良い子なのかは甚だ謎だったが、承諾しないと紐に圧迫されて血がとまりそうだったため、渋々断念する。

「いつか切ってやるからな」
「じゃあお休み〜」

 氷室の言葉を気に止めることもなく、シャルはすぐに紐を氷室から話して懐に仕舞った。アイとともに部屋に戻ろうとするシャルの様子を氷室は警戒した瞳で見送る。気がつかれないようにやったつもりだが、シャルには気がつかれていたようで、部屋を出る前に振り返り氷室の瞳と視線を合わせた。

「……(何者なんだ、あいつ)」

 シャルへの疑惑疑念疑問は募るばかりであった。


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