第二話:バレバレの密会 +++ 夜中、氷室は庭園に出ていた。庭園まであるとはつくづく宿としての質が違うと夜風に吹かれながら思う。夕食も普段氷室やレストが宿で食べているのとは違って、瑞々しい野菜に、口の中で蕩けるよう品々に思わずお代わりをしてもいいかシャルに尋ねてしまった。シャルは快諾をしてくれた。庭園には先客がいた。月の光だけでそれが誰なのか判断はつく。そもそも“そいつ”と会うためにレストが寝静まった後出てきたのだ。 「千愛、何故霊石を見たいといった俺の要望に答えた?」 氷室の声は酷く冷たい。言葉に冷気が籠っているようだ。そいつ――アイは腕を組みながら氷室を見据える。 「それを答えてやる義理はないだろう」 「まぁそれもそうだな。しかし、お前ならわかっているんだろ? 俺が霊石を見るだけで終わらせるはずがないと」 氷室は霊石を目にすれば、奪うことくらい容易に想像が出来ていた。だからこそアイは冷笑する。 「問題ない。第一お前は霊石を奪えない」 「……どういうことだ?」 「シャルの実家を知らず、シャルの兄を知らない癖に安易なことを考えるなってことだ」 それはアイの絶対的自信。シャルに対して、シャルの兄に対しての。 氷室は内心舐められたものだと失笑しながら、しかしシャルが氷室の不可視の力を交わしたのもまた事実。油断していい相手ではないことは充分に理解する必要がある。 「まぁ、どちらにしてもだ。氷室、お前の目的は何なんだ? 本当に――」 「千愛、“あいつら”に突き出されたいか?」 あいつら、その言葉にアイは押し黙る。 「詮索するな。それに、俺はお前を――『千愛』を見逃すんだ、これ以上好条件はないだろう?」 「……そうだな、そういうことにしておく」 「そういうことにしておけ。俺もお前も、何も知らなかったでいいんだ」 会話したいことは終わったと、氷室は芝生を踏み庭園を後にして部屋に戻る。氷室とレストは同室で、シャルとアイが泊っている部屋の隣だ。扉を開けて中に戻ると、仄明るい光がついていて、レストは寝ていたはずのレストは起床していた。それだけでない、シャルも一緒にいた。 「お帰り」 「……寝ていたんじゃないのか?」 「ん? あぁ、寝ていたんだけどシャルがやってきたから。……何処に行ったのかと思ったよ」 寝ていたのを起こされたのだろうレストは眠たそうに瞼をこする。 「シャル、何故」 レストに問いには答えず、疑問をシャルに向けると同時に扉が開く音がする。誰だか振り返るまでもない、シャルが部屋にいなかったからシャルを探しにアイがやってきたのだ。 「アイちゃんと氷室が出かけて行ったみたいだったからさ、お話は終わった?」 ニコニコとした表情に氷室は僅かに寒気を感じた。戦闘に長けていないアイが部屋を後にしたことをシャルは容易に見抜けるかもしれない。けれども部屋がいくら隣だろうとも氷室のことまで見抜かれるとは予想外だった。 [*前] | [次#] |