零の旋律 | ナノ

第一話:状況が違えば仲良くもする


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 レストと氷室はイティテェルから数キロ離れた所にある街ウェクセトに訪れていた。港街ということもあり、潮風が流れ、レストは新鮮な気分になる。ウェクセトに訪れた目的は霊石を求めていっそ別の大陸へ足を運んでみるかという案が出たからだ。まだ別の大陸へ足を運ぶかはウェクセトでの情報収集結果によって変わってくる。いつも通りその街で一番安い宿を取ってから、街を歩く。

「あ、レストだ」

 そこで無邪気な声が聞こえる。凄く親しげな声色だが、その声を聞いた瞬間レストは苦虫を潰したような顔になり、氷室は視線を鋭くして声の主を見る――前にレストの背後にその人物は飛び付いた。突然のことにレストは危うくバランスを崩して煉瓦の地面に激突するところだった。

「生きていたんだねー」

 凄く親しげだが、しかし声の主――シャルはレストを殺しかけた人物であり、決して仲がいいわけではない。そのことをシャルは忘れているのか疑いたくなる親しさだった。

「なぁ、なんでそんなに馴れ馴れしいんだ!?」

 シャルを払いのけて真正面に向いてからレストは叫ぶ。人目を憚らなかった結果、一瞬周りの通行人が何事かといった顔をしたが、しかしすぐに視線は消える。
真正面に向き合った結果、シャルの表情が間近で見えるそれは満面の笑顔だった。それが一層レストを不気味にさせる。
 シャルの隣には当然のようにアイもいた。シャルとは対照的にアイの表情はレストや氷室と同様のものだった。それが普通であるのに、シャルだけが笑顔なのだ。レストは身震いする。

「え、あぁ。あの時殺そうとしたことを気にしているの?」

 今さら思い出したようにシャルは言う。レストはそれ以外に何があると内心ツッコミをしたくてたまらなかった。

「大丈夫だよー今はそんな仕事受けていないからレストを殺さないし」

 さらっと続けて答えるシャルだが、レストには信じられなかった。例えあの時と状況が違うからといっても、普通殺そうとした相手に親しくはしない。

「そういう問題なのか?」
「え? 違うの?」
「……いいや、もう」

 シャルとは根本的に考え方が違うならば、これ以上レストが何かを言ったところでシャルは首を傾げるだけだ。
 シャルにとって仕事の対象でなければ、それは敵ではなく親しくしても不思議ではない相手になり、親しくしていても仕事の対象であれば態度を一変として――否、普通の態度のまま刃を振るのだ。

「そう?」
「あぁ。あ、そうだ、シャル。精霊石、もしくは霊石を知らないか?」

 アイと氷室は仲が悪いのか何やら睨みあっているが、我関せずとレストはシャルに精霊石か霊石のことを尋ねる。シャルが以前殺し合ったことを気にしないのならば、此方だけが気にしていても神経をすり減らすだけと、話の方向性を変える。『霊石』の単語が耳に入ったのか氷室は視線をシャルへ移した。しかしアイと睨みあっていたからか、シャルへ向いた表情もやや鋭さが残っていた。

「精霊石? それは知らないけれど、霊石は綺麗だよねーこの世のものって思えないよね」
「しって――!? って見たことあるのか?」

 精霊石については殆ど期待していない。けれど霊石をこの世のものとは思えないと表現したのは間違いなく目にしたことがあるという証拠だ。

「何処でだ!」

 氷室の食いつき具合にやや気押される。

「……立ち話も何だし、僕が止まっている宿に来ない?」

 と進められるままにシャルとアイが数日前から宿泊している宿へ足を運び

「……は」

 レストが呆然とした。何故ならそこはこの街で一番宿泊費が高い宿だったからだ。

「え、え、此処に泊ってんの?」
「うん。そだよー。レストと氷室は何処に?」

 宿の名前を出すとシャルが目を点にした。


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