V +++ リーダーの話を聞いてから、ついでに霊石について聞いてから――しかしながら目ぼしい情報は得られなかった――イティテェルを後にした。 リーダーの男は久方ぶりに飲むワインを口に運びながら今後のことを考える。 結局ケイは無事に逃げきったのか、市民の懸命な捜索――でもケイの姿が発見されることはなかった。それはそれでいいと男は人知れず安堵する。人が殺されないのならば、殺されないに越したことはない。 問題は領主の方だ、領主は路地裏で発見された。何者かに殺害されて――。 その殺害の手口から、素人の犯行ではないと男は判断した。犯人が何者かは不明なままだが、市民は怒りの矛先を無くして、けれど領主が何処かへ雲隠れしてなかった思いに心境は複雑だ。 「よぉ」 木を背もたれにしていた男の背後から気軽に声をかけてくる人物がいた。 「里見(さとみ)か」 砂の契徒――里見はケイとは違う軽薄な笑みを浮かべながら男の隣に並んだ。 「反乱無事に成功したな」 「里見がいてくれたからだ。それにしても、里見は何故俺に手を貸してくれたんだ?」 レストには、変わったやつだけど、悪い奴じゃなさそうだったから契約を結んだと答えた。しかし、そもそも何故、里見が力を貸してくれるのかは今でも謎だ。あえて問うことはしなかったが反乱が成功した今、里見に聞いてみたくなったのだ。 「それは――面白いものが見たかったから」 里見の手にきらりと光るもの。太陽の光が反射して自分の顔が映る。自分の呆けた、表情。 そして、それは自分の顔以外を映し出すが、何を映し出したのかわからない。 腹部を貫く何か、痛みに呻くよりも先に脳内を埋め尽くした単語は“何故”だった。 痛みをする腹部に手を当てれば、ぬめりとした触感。恐る恐る手の平を自分の眼下に移動させると、手は真っ赤に染まっていた。 「な、なんで」 男は声を絞り出す。残酷で冷酷で軽薄で愉快な表情をたむけの花のように向けている契徒に向けて。里見はなんてことはないと、声に笑いを含ませながら答えた。 「反乱が成功して、是からって時に指導者が死んだら、街がどうなるのか面白そうじゃないか」 言葉を耳にしてすぐに男は地面に倒れた。毒でも塗ってあったのだろう、徐々に身体が硬直して動かなくなっていく。薄れゆく意識の中で、最後まで聞こえていたのは契徒の軽やかな足取りだった。恐らく里見は街の様子を高みの見物でもしながら、笑い見るのだ――里見が飽きるまでの玩具として。 [*前] | [次#] |