零の旋律 | ナノ

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 反乱が終わった後も人々の熱は下がらない。むしろ上がって行く一方だ。
 霊石がない今、この街にこれ以上滞在する必要はない。次の街へ向かうべきだが、しかしその前に確かめたいことがあった。それはリーダーの隣に並んでいる砂の契徒のことだ。彼が反乱の最中何か仕出かすのではないか、そんな考えがよぎったがしかし、反乱の最中、砂の契徒は何もしなかった。
 砂の契徒がレストの顔を覚えているかは別として、一度出会っているが故になるべく顔を合わせたくなかったレストは、リーダーが一人になるのを見計らって――具体的には氷室と一緒に屋根の上で観察して――姿を現した。

「お前は……確か氷の契約者か」
「あぁ。一つだけ聞いてもいいか? 砂の契徒とはどうして契約を?」

 氷室に習ってレストも単刀直入に尋ねる。今、この場に砂の契徒はいないが、何時戻ってくるとも限らない。手短に会話を済ませる必要があった。

「力が欲しい時に、あいつが手を貸してくれるっていったのさ。変わったやつだけど、悪い奴じゃなさそうだったから契約を結んだ。実際結んで良かったと思っている。そうでなければ現状が変わることはなかった――いや、変わったかもしれないが、しかし成功はしなかったと思っている」
「変ったかもしれない? それは何故だ」

 力があったからこそ、反乱を企てたのではないのか、レストのもっともな疑問に、男は表情を緩めた。

「誰も気がついていないが、反乱を起こせるきっかけはそもそも契徒とも力ではないんだよ」
「どういうことだ?」
「ケイ――あの商人の息子が原因さ」
「……?」
「あの男は、異様なほどにこの街で金銭をばら撒いた。それによって過剰過ぎる徴収によって生きる気力も明日の生活も困っていた人々にお金が手に入ることになったんだよ。そして物資が流通するようになった。街に活気も戻ったのさ。あの男はたった一人で街を動かすだけのお金を使ったんだ」

 それは意図してか。それとも偶然か、その話を来てしまえば判断がつかなかった。軽薄な男でありながら氷室とのやりとりの手腕だけは確かだった。

「まぁそれが最終的には市民の逆鱗に触れる結果になってしまったのも事実だが、俺はあの男が態とやったんじゃないかって思っているよ」

 初対面のレストと氷室に教えたのは協力をしてくれたお礼ではない。彼らが初対面だからこそ教えたのだ。心中に一人閉まっておきたくなくて、誰かに土産話として話してしまいたかったのだ。その思いに対して部外者であるレストと氷室はうってつけの相手であった。

「ま、それも今となってはどちらが真実かは定かではないしな。どちらも確証にいたるには足りなさすぎる」

 男の言葉にレストは頷く。もし、本当にケイがそう思ってやったのならば、他にもやり方があったかもしれないのだ、道楽息子として振舞わなくても――。その可能性を実行しなかった理由は掴めないし、何故レストや氷室と同様に部外者であるケイが、街一つを動かすだけのお金を使う必要があったのか皆目見当がつかない。道楽息子であるがゆえに、金に糸目をつけず快楽だけを貪ったと言われればそれはそれで頷くよりほかない。違和感があり、それでも違和感を覆すだけの理由はないし、そもそもその違和感自体がおかしいことなのかもしれない。
 ケイの真相など、ケイ本人に問い詰めるよりほかない、此処でいくら推測したって憶測の域を出ることはないのだから。最もケイ本人の口から語られたことが、真実ともまた限らない。


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