零の旋律 | ナノ

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 刃と刃がぶつかりあう音、人の悲鳴、怒鳴り声、爆発音、其々がばらばらに、そして同時に響き渡る。武器による扱いはいくら数の上で市民が勝っていても軍人の方が上だ。実力で数を押し切ろうとしている。
 苦戦し、今にも殺されそうな市民を見かけるとレストは、氷の契約術を放ち、助太刀をする。

「あ、有難う。助かった」

 レストの顔に見覚えがなく一瞬困惑したが、しかし全ての仲間を把握しているわけでもない市民は仲間の誰かだろうと判断しお礼を言う。第一、レストから敵意は一切感じなかった。
 助かったのならば、他の苦戦している誰かを助けるだけだと市民はすぐに走り出す。忙しなく街が動いているような錯覚にレストは陥りかける。

「……さて」

 レストは何も知らず、市民を助けたわけではない。反乱が起きるまでの期間、レストはこの街のことを調べて回った。だからこそ傍観に徹するのでもなく、苦戦している市民に対して助太刀する道を選んだ。
 最も反乱を起こしている市民側のリーダーが誰だかは調べなかった。誰だろうと問題はないと――街について調べることを優先してしまった。
 だからこそ――予想をしていなかった。予想外だった。
 細い道を抜けて広場に辿り着くと、大半の兵士はすでに捕まっていた。
 無血で反乱を起こしているわけではない以上、双方に被害は出ていた。血を流して苦悶の表情を浮かべている者、既にこと切れた者。レストの視線はしかし、彼らへは向かなかった。それ以上の驚愕によってある一点から目が離せなかったからだ。

「あいつは……!」

 リーダーと思しき人物――恐らくは確実だろうが――その隣に、契徒がいたのだ。
 契徒がいること自体は元々知っていたが故に問題はない。しかし問題はその契徒に見覚えがあることだった。茶色の髪は艶やかで、左右にはピンでとめてワンポイントにしている。全体の髪は短いが、しかし前髪だけは右目を隠してしまう長さがあった。左目の青き瞳は生き生きとしていた。この現状が楽しくて仕方ない、そういった瞳だ。明るい茶色のコートを羽織、白いズボンの構造はシンプルで、この世界では滅多に見かけない服装。
 その契徒は以前、レストがレイシャやアエリエと出会った街リヴェルクで支配者の隣にいた契約者であった。見間違えるはずがなかった。契約を結んで置きながら、飽きたという理由で契約者を殺した契徒、それが彼だ。

「な、なんであいつが」

 驚きのあまり、言葉になって出てきた。慌てて口元を押さえるが、レストの言葉は人々の声にかき消される。その契徒がいくら、以前の契約者を殺したからといって、レストがどうこう出来るわけではなかった。契約を結んだ契徒は半不死の能力を得る。半不死の力を持った契徒を殺すことをレストは出来ない。だからといって契約者を殺すことは出来ないし、もってのほかだ。
 契約者がいるからこそ、反乱の勢いは高まり、こうして成功にあと一歩のところまで近づいている。此処で契約者や契徒がいなくなれば、領主側が再び息を吹き返し反撃に出てくることは目に見えている。
 何も出来ない。そもそも、あの契徒が再び契約者を殺すとも限らない。何せ契徒の瞳は爛々と輝いているのだから。


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