零の旋律 | ナノ

第七話:霊石


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 氷室は研究施設内に侵入する。その研究施設の規模はそこまで大きくないものの、しかし個人で持っているとは思えないほどの設備だった。
 此処なら霊石を研究していても不思議じゃない――むしろ逆に存在しない方が不自然だと判断する。所々精霊術による侵入者防止の術式が働いていたが、それらを氷室は悉く無効化する。数少ないとは言え残っている警備兵を目撃証言が残らないように一人残らず潰して殺した。レストは不必要な殺生を好まない。偽物の契徒狩りに狙われた時も相手を殺していなかった。だからこそ、氷室はレストと別行動を取った。勿論、レストが反乱の結末を見届けたい思いがあるのを知っているからそれも利用した。
 レストと行動を共にしていれば、相手を生かすことになる。それは氷室にとって好ましいことではなかった。何故ならば、相手を生かすということは、後々に証言をされれば不都合が起きる可能性があるからだ。氷室はその可能性を消すことにしている。レストと一緒にいるときには滅多に見られない氷室の非情で残酷な面が垣間見える。

「霊石があるって話だが、何処だ?」

 優しさなど欠片も持ち合わせてない瞳に、研究者は震え、怯えながら霊石を研究していた場所を素直に告げる。研究者に背を向けて、氷室は霊石がある場所を目指して進む。研究者は生き残ったことに安堵した瞬間、その希望を打ち砕かれる。圧迫感、不可思議の何かに押しつぶされるような――重力に潰される感覚がしたと同時にこと切れた。研究者の周りには窪みが出来ていた。

「此処か」

 期待を膨らませて――例え、精霊石ではなくて霊石だろうと、手に入られられればそれだけでアドバンテージになると氷室は扉を開ける。しかし、それと同時に怒りが沸々と湧きあがってきた。

「どういうことだ!」

 そこはすでに惨劇の後と化していた。慌てて机の上に錯乱していた資料を漁る。比較的無事な資料には霊石を研究してきた形跡はあった。しかし肝心の研究成果は何処にも記載されていない。研究成果が記載された資料はどれも解読が不可能なほどにバラバラにされていた。
 霊石も存在していない。研究者たちは刃物で切り裂かれ、血を流して死んでいる。壁は血にまみれ、床は赤い水たまりを作っていた。研究者の身体に氷室は触れると、まだ温かった。氷室と入れ違いになるような時間帯に、何者かかがこの場に足を運び、そして霊石を持ち去ったのだ。

「くそっ」

 氷室は壁に拳をぶつける。痛みよりも怒りに感情が支配され、痛みなど殆ど感じなかった。

「一体誰が……!」

 氷室の叫びに答える者は誰もいない。


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