零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、まぁ俺はそろそろ帰るわ、野郎どもと一緒にいたって楽しくもないし」

 緩慢な動作でケイは立ちあがってから、店主に支払いをしている様子をレストは横目で見る。正面から見ても問題ない気がしたが、聊か憚られたのだ。ケイはどう考えたって飲食代以上の料金をケイは支払っていた。金銭感覚がおかしくて、その金額が妥当だと思っているのか、それともぼったくられていることに気がついていないのか。レストは後者だろうと予想する。

「なんか凄いやつだな」

 レストは呆れながらケイに対する感想を一言で纏めた。氷室も同意見なのか苦笑している。

「さて、どうするか」
「やっぱ混乱に乗じての方がいいんじゃないの?」

 レストの言葉に、氷室は暫くの間沈黙してから、頷いた。

「そうだな。その方が混乱に乗じて色々と誤魔化せるし都合がいい」

 内心レストは安心した。氷室ならば即効行動に移しても不思議ではなかったからだ。
これ以上店内にいても、料理を注文する予定もないし――第一お腹一杯だ――会計済ます。金額はぼったくられない通常の値段だった。やはりケイに対してだけのようだ。
その後は、旅人がよく利用するいつも通りの安い宿を取る。この間利用した宿よりかは幾分手入れも行き届いていて綺麗だ。その分、値段も張ったが、この街で一番安い宿はここしかなかったため諦めた。必要とあれば野宿もするレストと氷室だが、必要がない時まで野宿はしたくない。

+++
 二日後、ケイの言葉通り街で大規模な反乱が起きていた。市民と領主側の兵士があちらこちらで 乱闘を起こしている。

「本当に起きている……」

 レストと氷室――他にも宿を利用していた者たちは朝早く一斉に宿を追い出された。
いざという時の救護する場所として宿を利用するためらしい。旅人にばらしたということは此処まで来れば隠すこともないということだ。このまま、混乱に乗じて行けば研究所へ侵入することも比較的容易に済むだろう。

「俺はこのまま研究所に混乱に乗じて侵入する。お前は結末でも見届けるか?」
「……そうする。大丈夫か?」
「問題ない」
「じゃあ、後で会おう」

 レストは喧騒の中に向かって走って行く。対する氷室は宙に浮いて人目につかないよう、上空から研究所へ向け進む。二日間の間で、何処に何があるのかを大体は把握しているつもりだ。第一レストと違って方向音痴ではないし、と心中で呟く。


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