零の旋律 | ナノ

V


「この街の領主が秘密裏に霊石の研究を行っているって話だぜ」

 店の店主に聞こえないように、ケイは囁く。氷室の表情が一変して不敵な物へ変った。道行く人が自分の邪魔をするなら、問答無用で排除する、そんな表情。氷室のその態度が気に入ったのかケイは面白そうに口を歪めながら話を続けた。

「霊石について研究するなんて、相当な物好きだよな。霊石なんて価値そのものが高い。売れば当分は遊んで暮らしていけるんだぜ?」

 霊石とは輪廻転生を繰り返し、その存在における死の概念がないとされる精霊が死に化石となった姿である。それ故に、滅多に霊石が発見されることはなく、希少価値は高く高値で売買されていた。そして、霊石はその存在そのものが謎に包まれている。けれど研究が進まないのはその存在価値の高さゆえだろう。

「なら、何故此処の領主はそれをする?」
「そんなもの、霊石をうっぱらわなくても遊んで暮らせるだけの金があるからだろ?」
「あぁ、成程」
「この街の税収はとっっても高いからな」

 ケイの言葉にレストは不思議と納得した。街としての違和感を覚えたのはやはり錯覚ではなかったのだ。

「噂だけどよ」

 酒がまわっているのか、ケイは饒舌だった。テーブルには空になったグラスが次々と増える。ケイの話はそれでも巧みで、店主に聞かれたくないと思う内容は店主がテーブルに酒を持ってくるときには一切話さない。

「近々、反乱が起きるらしいぜ」
「成功するのか?」

 会話に食いついたのはレストだ。 

「成功見込みは高いと思うぜ、何せ反乱する市民側には契徒がいるって噂だしな」

 噂であり推測だが、仮に領主側に契徒という力がないのなら、不可能ではないなとレストは隣にいる契徒に視線を向ける。それだけ、詠唱無くして術を行使できる力の利点は大きいのだ。

「契徒か」
「そう、アンタらと同じ契徒と契約者がいるってな」
「俺にはどうでもいいことだけどな、仮に本当にこの街で霊石の研究をしているのなら、そこに用があるだけだ」

 氷室にとっては目的を達成するためならば、目の前でどんな光景が繰り広げられていようと、最初からそんな光景はなかったのように素通りしてしまう。目的のためならば手段を選ばず、周りを顧みない。しかし――とレストは思う。それでも何処か優しさが残っているのが氷室だと。そうでなければ、精霊石を探すために一緒に行動を共にしたりはしない。

「ふぁぁ。そろそろ眠ぃな。霊石の研究をしているは領主邸の近くにあって普段は厳重な警備がひかれているけど……」

 悪魔の微笑みでケイは氷室を見る。

「成程、反乱がおきれば警備は自然と疎かになるってか」
「そういうこと、まぁ反乱よりも霊石を守ることに固執するんだったら、それは警備減らないかもだけど。それに二、三日も待てない、今すぐってんなら話は別だけどな」
「そりゃそうだ」

 氷室とレストはすでに料理を間食していたが、ケイがビールを次から次へと頼むので、テーブルは常にグラスで溢れていた。それを店主がすぐに片付けにこないのは、ケイのことを好いていないからだろう。何より、一人で切り盛りしているのか、店員が他に見当たらない。


- 24 -


[*前] | [次#]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -