零の旋律 | ナノ

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「なぁ話がある」

 女性たちは露骨に嫌な顔をしたし、ケイはめんどくさそうな視線を氷室に向けたが、氷室には関係なかった。

「聞きたいことがあるんだが」
「……じゃあ、あと三十分待て」

 断ってもしつこく聞いてくるだろうと判断したケイは渋々三十分後で妥協した。

「わかった」

 氷室もそれならば妥協出来る範囲だと、短いやりとりを済ませてからレストの元へ戻った。
 人の邪魔をして何様といった視線が氷室に集中して、レストは自分に視線が集中しているわけでもないのに居たたまれない気持ちになった。叶うことなら氷室と違う席に座り直したい。

「三十分待てとさ」

 妥協は出来る範囲だが、可能ならば今すぐに話が聞きたかったと露骨に表情として表れていた。
 三十分待ったけど、目ぼしい情報が得られなければ時間の無駄、だからだ。

「まぁまぁ、それくらいは待ってあげなよ」

 レストは何故俺が窘めているんだ、と内心思ったことが言葉に出ないように料理を口に運んで飲み込む。三十分後、女性たちはケイに別れお告げ――顔は金銭を頂けたと満足げにその場を去って行った。店内は一気に閑散とした。客はレストと氷室を除けばケイしかいない。ケイは酔っぱらっているのか覚束ない足取りで、テーブルにやってきて、椅子に座る。手を挙げて店主を呼び、ビールを追加注文した。

「で、話って何よ」
「精霊石って知っているか?」

 まどろっこしい話はしない。尋ねる時は単刀直入なのが氷室だ。ケイは暫く顔を顰めていたが、ややあってから

「……霊石より遥かに高密度の石のことか?」

 氷室の望むものに近い答えが得られた。

「あぁ、それのことだ。何処にあるかしらないか?」
「さぁ、そこまでは知らないな。第一、そんなものを知ってどうするつもりなんだよ」
「俺はそれを探しているんだ」

 答えになっていない答えに、ケイは顔を顰め、手元にあったビールを一気飲みしてからさらにビールを注文する。一体何杯飲めば気が済むのだとレストは眉を顰める。

「そもそも霊石すら滅多に見かけないレアもんなのに、それのさらに上なんて何処にあるか見当もつかねーだろ」
「お前商人のボンボンなんだろ? なら霊石でもいいからありか知らないか?」
「興味ね―から知らない」

 その言い草に氷室は思わずケイを殴りそうになったが拳を固めるだけで終わらせられた。

「……ふあぁ。あぁ、そうだこの人知らない?」

 そう言ってケイは服の上側から一枚の写真を取り出した。

「こいつは?」

 写真に写っていたのは、凛々しい瞳が印象的な美人だった。

「以前、別の街で見かけてねぇ、一目惚れしたんだー。けれどそれ以降見かけなくてさ」

 それが一種のやりとりだということに氷室は直感的に気がついた。だからこそ返答はこうだ。

「知らないな、見たことはねぇけど、出会ったら教えてやるよ」

 知りたいことがあるならこちらの知りたいことも教えろ、そういうことである。
 しかし、氷室にとって写真の女性が誰であるか全く見当がつかない、出会ったら教えるが最大限出来る情報提供であった。


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