零の旋律 | ナノ

第六話:情報を求めて


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 商業の街イティテェル。レストと氷室は言いにくい街の名前だ、と何度か噛む。そしてレストは街の雰囲気に違和感を覚えた。明確な根拠はないが、リヴェルクを何処となく彷彿させた。活気にあふれているのは見かけ倒しで、軽く爪を立てればメッキがはがれてしまいそうな脆さと偽りさが漂っているようにレストには思えてならなかった。氷室の方へ視線を移すが、氷室には違和感がないのか、それとも違和感を覚えたうえで興味がないのか、普段と変わらない表情で周囲を眺めていた。情報を持っていそうな人物を見つけるためだ。契徒が物珍しい街なのか、それとも別の理由か、先刻から契徒である氷室に対して視線がちらほら集まる。視線には好奇心や興味、嫌悪、様々な感情が混じっているのは別段珍しいことではない。
 リティーエの民に持たざる力を持つ契徒を羨望するものもいれば、畏怖の対象とみなす者、精霊を扱えないがゆえに嫌悪をするもの様々だ。

「何か目ぼしい人は見つかりそうか?」
「全然。こういうときは情報が集まりやすい酒場に行くのが定番か」
「じゃあ少し早い夕飯ってことでいくか?」

 現在時刻は夕日が沈む頃合い。明日は晴天だなとレストは思いながら手頃でかつこの時間帯からやっている酒場を探す。
 やや古びた扉は立てつけが悪く、力を入れて引っ張るとようやく開いた。扉の立てつけが悪い通り内装も決してきれいとは言えなかった。所々バケツが置いてあるところを見ると雨漏りをしているのだろう。しかし内装に反して、酒場は賑わっていた――ある一点のみで。

「なんだありゃ」

 氷室が怪訝そうな顔をするのも無理からぬことだ。何せ、酒場のある一点では中心となっている人物に集るように人が――特に胸元を大胆に露出させたり、肩を露出したりしている女性たちが集まっている。

「さぁ」

 そして、中心にいる人物の周りには、札束が大量に置かれていた。

「なぁ、あれはなんですか?」

 酒場の店主らしき人物に話しかける。中心にいる人物がいることによって機嫌がいいのか、上機嫌で答えてくれた。しかし、そこには侮蔑と嫌悪がにじみ出ている。

「あぁ、あの野郎はな、ケイって言うんだけどよ。金持ち商人のボンボン息子らしくてな、自堕落な生活を送っては女の尻を追いかけまわして酒を浴びるように飲んでお金をばらまくんだよ」
「……な、成程」
「全く、一人そんな贅沢三昧をこの街でやりやがるから、あいつの評判はすこぶる悪いけどな。でもいい鴨だから表面上は皆ニコニコしてお金だけ頂くのさ」
「な、成程……」

 レストの言葉は成程しか返答のしようがなかった。あらためて中心にいる人物を眺めると、確かに上から下まで高価な布や高級品、宝石を見につけている。顔立ちは整っていて、黙っていれば二枚目、現状をみれば残念な二枚目といったところだ。やや緑がかった黒髪にはカチューシャが特徴的だ。黄土色の瞳や女性を見るために忙しそうだ。手には並々に注がれたビールがあり、口元に持ってくると一気飲みをしている。

「なんだあいつ……」

 呆気にとられ呆然とするレストに構わず、表情をほとんど変えないで氷室が

「物知りな奴しらないか?」

 と店主に質問をした。席に座り料理を注文するついでにだが。

「そこのケイにでも聞いてみたらどうだ?」
「あ……確かに」

 店主の言葉に、氷室は視線だけを賑わっている場所に移す。あまりかかわりたくない雰囲気が漂っていてレストは近づきたくなかったが氷室は行動に移す時は早い。即決なのだ。
 氷室は女性たちの間をかき分けてケイに近づいた。


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