零の旋律 | ナノ

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「シャル……」

 契徒狩りにいた見知った顔、それはシャルだった。アイの契約者でもある少年だ。
 それと同時に理解する、契徒狩りが存在しているこの街で、契徒であるアイがいたのは、彼は契徒狩り側の人だったからアイは契徒でも契徒狩りの対象からは例外扱いのだ。

「あはっ、昨日ぶりだねー」

 昨日と何一つ変わらないテンションでシャルは話しかけてくる。親しくなったわけではない、ただ道端で出会っただけならその態度は当然かと、レストは剣を握り締める。
 他の契徒狩りは武器を構えているものの、レストに向かって来る気配がなかった。シャルが身軽な動作で、他の契徒狩りより前に出る。

「お前は契徒狩りだったのか、契約者なのに」
「んー、まぁ半分ほど正解かな?」
「半分?」
「うん」

 そういってシャルは先端にクナイが付属した紐を取り出した。紐を頭上で回しながら、勢いをつけ、レストにクナイと紐が襲いかかる。レストは紐を交わそうと左へ移動する。クナイが地面に突き刺さる。一歩動作が遅ければレストの太股に直撃していただろう。しかし避けただけでは安心できない。シャルが紐を引くと同時に、地面を抉りながらクナイがレストの方へ向かって来る。

「ちっ……!」

 レストは氷の壁を一瞬で作り上るが、

「焔を付加せよ」

 シャルが下級の精霊術を詠唱し、クナイに焔を纏わせる。焔を纏ったクナイは氷の壁を破壊した。

「なっ!」

 勢いはある程度弱まっていたが、それでもレストの右腕に直撃する。焔を纏ったクナイは肉が焼けるように熱い。
 シャルは紐を引っ張ると、レストの右腕からクナイが抜けると同時に血しぶきが舞う。焔を纏わくなったクナイはしかし、真っ赤だった。
 右腕から血が滴る。レストは氷の刃を無数に作り上げて、シャルに投擲する。シャルは身のこなしが軽く、舞台を見ているかの動作で、次々と氷の刃を交わす。目標に当たることなく地面に突き刺さった氷は、やがて霧散する。
 レストが先刻よりも三倍以上に氷の刃を増やす。逃げ道は塞いだ、がしかしシャルは両手に握ったクナイで自分に当たる攻撃だけを全て弾き飛ばす。

「あはっ」

 余裕綽々の表情に、レストは焦りを覚える。この契約者は、未だ契約術すら扱っていない。すなわちそれは本気ではない。
 レストは遠距離から攻撃しても分が悪いと判断し、両手で剣を握りシャルの元へかける。

「接近戦? いよー」

 レストは見当違いをしていた。紐とクナイを扱うのだから、シャルは中距離からの攻撃を得意としていると。シャルはクナイで氷の刃を悉くはじき返したのだから、接近戦の扱いにも長けていることに気がつくべきであった。
 レストは軽く跳躍して、威力をつけて剣を振るう。それをシャルはクナイで受け止めた。レストより身長も低く、体重も軽そうな少年は、レストの重みと剣の勢いに押されることはなく、平然と立っていた。その事実にレストが驚くよりも先に、シャルは左手で握っているクナイでレストの腹部を突き刺した。

「つあっ……!」

 レストは痛みでバランスを崩して地面に倒れる。身体と地面の間に足を入れ、シャルはレストを蹴りあげた、それは勢いよく飛ばされ木へ激突した瞬間に、タイミングを合わせたようにクナイがレストの右腕に突き刺さる。クナイは木とレストを縫うように突き刺さっている。
 その後、紐のついたクナイがレストの身体を無数に切りつけた。レストは痛みで悲鳴を上げる暇もなく意識を失った。

「さてと、止めでも刺そうっか」

 傷一つ負っていないシャルは、笑顔を崩さずにレストへ近づこうとする。シャルの後に控えていた契徒狩りの面々を一緒に歩き出した。


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