零の旋律 | ナノ

第五話:契徒狩り


 翌日、夕食と変わらない朝食メニューを取ってから、今日は二手に分かれて精霊石についた情報を集めることにした。方向音痴のレストがまた迷子になることを危惧した氷室は街の地図を渡して、入念に地図の説明をした。
 レストは地図に示された場所へ向かう。方向音痴のレストだが、地図を持って歩くと比較的迷わない。根本的な所から間違えていなければ、だが。
 その途中、見知った頭を見つける。レストにとって、忘れられるはずがなかった。何せ短髪じゃない男の契徒なのだから。

「アイちゃんー」
「ちゃん付けは止めろ!」

 レストは深緋髪の契徒アイに近づき背後から声をかける。振り返ると同時に、昨日出会った契約者だと判明したアイは、ちゃん付けは止めろと抗議をする。

「シャルって子はちゃん付けで呼んでいたから別にいいじゃん」
「……男をちゃん付けで呼んで楽しいか?」
「あだ名なら無問題。あ、そうそう俺はアイちゃんに聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」

 アイは下がってきた眼鏡を上げる。

「うん。男の契徒って短髪中心って本当?」

 氷室がその場にいれば、精霊石についてきくんじゃないのかよ! とほぼ百パーセントの確率で突っ込みを入れてきそうな、しかしレストにとって精霊石以上に聞きたい内容であった。

「……何で急に?」
「いや、氷室が前々から男の契徒に長髪なんて貴重種だ! って言われたから」

 聊か歪曲して伝える。

「……まぁ、確かにリティーエの民と比べたら圧倒的に男で長髪ってのは少ないから強ち嘘でもないとは思うが」
「そうなのか……ちっ」
「何故舌打ちをする」
「いや、氷室の言葉が嘘だったら良かったのにって思ったから」
「多分事実だと思うぞ」
「残念過ぎる……」

 あからさまに表情を変えたレストにアイは苦笑する。その時、突然レストがアイの手首を掴んだ。

「は?」
「逃げよう」

 レストはアイを連れて走り出す。何が起きたのか判然としなかったが、抵抗せずに一緒に走り出した。人気のない、街の外まで移動したところで、レストはようやく足をとめた。

「……アイちゃんって体力ないんだね」

 時間にして三分間走った。レストは息一つ乱していないが、アイは息をきらし、肩で息をしている。今にもその場に座り込んでしまいそうだった。

「ってか飛べばいいのに」
「は?」

 飛べばいいのに、と言われたアイは怪訝そうに顔を顰める。

「え? だって契徒って飛べるんだろ? 氷室がそういっていたぞ」
「氷室って何の固有能力持っているんだ?」
「氷室? 氷だけど」

 そう言ってレストは氷の刃を作り出す。氷は太陽の光を受けて煌めく。その様子をアイは考え事をするように眺めていた。

「氷室に氷か、なんか名前的にピッタリだな」
「そうなのか?」
「あぁ、そうなんだよ。表記が違うから、お前らにはわからないだろうけど」
「へー、知らなかった」
「……そもそも、契徒の言語自体、リティーエの民とは別もんだ」
「そうなのか!?」

 アイの語る契徒は、レストにとって初めて耳にするものであった。氷室はそのようなこと、今まで一度たりとも教えてくれたことはない。

「あぁ。まぁ別に俺たちはこっちの言語を理解しているから、別段お前らにとって不自由することでも困ることでもないだろう? だから態々契徒は伝えないのも多いんだよ」

 それは氷室に対する――契徒に対するフォローだろうか、しかしレストは素直に言葉通りの意味で受け止めた。


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