零の旋律 | ナノ

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「この街には精霊石の目ぼしい情報はないか……無駄足だったな」
「せめて次の行き先が決まるような情報がないと厳しいよな」

 仮に精霊石に関する情報が嘘だった場合、この街には最初から精霊石の情報がないことになり無駄足を踏んだこととなる。そうなると、次に行くべき場所が決まらない。あてどなく彷徨った所で出会える可能性は低い。それならば、情報があった先に向かった方がまだ可能性が高いというものだ。

「まぁな。よし明日一日探して何もなかったら近くの街へ移動しよう」
「了解。早く見つかるといいね」
「全くだ。よし寝るぞ。あ、その前に」
「おやすみー」

 氷室の言葉を遮ってレストはベッドに潜り込む。

「……ちっ」

 氷室は舌打ちした後、手に握っていた鋏を閉まった時、布団を被っていたはずのレストががばっと起床した。

「は? どうしたんだよ」
「そういや、あの契徒……アイちゃんとか呼ばれていた契徒の髪長かったぞ!?」
「ちっ……」
「今舌打ちしたよな!? アイちゃんは契徒で且つ男でも長髪いたぞ!?」

 レストが抗議するのにはわけがあった。氷室は長髪の男子を見ると髪の毛をバッサリと切りたくなるのだ。リティーエの民は男性も女性も長髪でいても何ら不思議はない。割合的にも半々より少し短髪が多いくらいだろう――手入れの面で。
 しかし、契徒には長髪男子なんて滅多に存在しないと、氷室は口癖のように言っていた。そして、レストの髪を切ることを強行していた時も多々あった。
 実際レストも契徒と沢山出会ったわけではないが、出会った男の契徒は大抵短髪であった。
 だからこそ、契徒は長髪を好まないのかと半ば無理やり自分を納得させ掛けていた時だ、アイと呼ばれた深緋髪の契徒に出会ったのは。アイはポニーテールにして長い髪を一つに纏めていた。髪を下ろすと腰まであるレストと比べれば短いが、それでも長髪の部類には入る。

「……稀に、稀にだ!」
「でもいるにはいたじゃないか!」

 勝ち誇った顔をするレストと、あの契徒次に出会った時は髪の毛切ってやると明後日の方向を向きながら決意する氷室がそこにはいた。

「じゃあお休み〜」

 満足げな顔でレストは今度こそ眠りに入った。


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