零の旋律 | ナノ

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「この街には契徒狩りをする奴らがいるから、気を付けた方がいいよ」
「……契徒狩り?」
「そう、契徒を快く思わない輩が集団になっているんだ、だから――この街には今契徒は存在しない」
「ご忠告有難う」
「忠告にならなかったみたいで残念だよ」

 初老の男性は氷室がこの街から退却する気が全くないと会話から感じ取ると、残念そうな顔を浮かべ、去っていった。

「契徒狩りか、気をつけないとな」
「他人事だなぁ。気をつけるのは氷室だろ」
「いくら狩った所で、お前と契約している俺は殺せないだろ」
「……そうだけど」
「第一実際現れた所で問題はない、さっさと情報を集めるぞ」

 契徒狩りを気にするレストとは対照的に契徒である氷室は他人事だと言わんばかりだ。
 人ごみに疲れたレストは、人を見るのも疲れたのか地面を見て歩いていた時だ

「おい、ぶつかるぞ」
「は?」

 氷室の忠告空しく人と正面からぶつかってしまった。前方不注意だ。レストはぶつかった衝撃でバランスを崩しかけたものの尻餅をつくことはなかった。しかし相手はそうはいかなかったのだろう、鈍い音を立てる。

「すみません……大丈夫ですかって?」

 レストは途中で疑問符を浮かべる。何故なら、その人物の服がリティーエの民とは異なる格好だったからだ。深緋の髪はポニーテールで纏めてあり、橙色の瞳。視力が悪いのか赤斑の眼鏡をかけている。桜色のマフラーを巻き、レストから見れば、謎の飾りともネックレスとも取れないような物が首にかけてあった。一周するわけでもなく、それは中途半端な所で終わっている。しかも先端は拳程度の大きさで円を描いている。服装も全体的に氷室に似たような構造でやや硬めのコートを着ている。それは、このリティーエの民とは違う服装――契徒である恰好だ。

「あぁ、大丈夫だ」

 年の頃合い二十台前後の契徒である人物はレストの手に捕まり起き上がる。氷室よりはやや低いが長身の契徒も、同じ契徒である氷室に気がついたのだろう視線が氷室へ向く。

「なぁ、俺はこの街に契徒がいないって聞いたんだけど?」

 それとも初老の男性の言葉が嘘だったのか、氷室は単刀直入に問う。

「契徒狩りのことか」
「そう、それ」

 しかし契約狩りは嘘ではないようで、この契徒もその存在を知っていた。

「それなのにアンタ契徒だよな?」
「あぁ、そうだけ……」
「アイちゃんいたー!」

 深緋髪の契徒が答え終わる前に、無邪気な声がそれを遮る。そして契徒の背後から抱きついた。衝撃で再び契徒はバランスを崩しそうになるが、辛うじて今度は踏みとどまった。


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