零の旋律 | ナノ

第四話:求めるモノ


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 レストと氷室が本来なら昨日到着するはずだった街“エンテア”に到着する。
 支配者が圧政していたリヴェルクの雰囲気とは一変して、賑やかな街だった。人や物資が溢れ、賑やかより騒がしい方があっているかもしれないほどだ。

「おい、いい加減下ろしてくれないか」

 氷室はもう宙に浮いていなかったが、レストは担いだままだった。人々の奇異な視線が気になりレストは頬を僅かに赤く染めて抗議する。

「あー忘れていた」
「てめぇ!」

 氷室は素で忘れていたらしく、思い出したようにレストを下ろす。何か腕が重いと氷室は丁度思っていたころだった。

「いいか、俺から離れるなよ」
「お前は過保護過ぎるんだよ、迷子にはならないから安心しろ」
「安心出来たら俺は最初から何も言わない。お前の迷子にならないから安心しろは今まで安心出来た試しがないんだ」

 氷室からの信頼度が零過ぎてレストは眉間に皺を寄せる。煉瓦で統一され、街が一つの雰囲気を醸し出していたリヴェルクとは違い、統一がされていない建物はそれぞれに個性が強調されていて、時には真っ赤な建物など目に痛いのもある。
 風船が時々空を舞っているのを見ると、誰かが手を離したからだろうとレストは判断する。最も風船は遠くまで飛ぶことはない。風船にかけられた精霊術も暫くすれば解けて風船は重力に従って落下してくるからだ。

「此処になら、ある可能性が高いんだよな」
「あぁ、そうだ霊石がな、そして精霊石の情報も入手できる可能性がある」
「だけど、霊石の存在なら極稀に売買されていることは聞いたことがあるけれど、霊石じゃなくて精霊石なんて本当に存在するのか?」

 レストと氷室には求めている物があった。正確にはレストと氷室というより氷室が、なのだが。霊石とは、精霊が死に、残った魔力が結晶化したものである。
 精霊とは本来転生を繰り返す存在で、死に結晶化することは殆どない。そのため霊石は非常に貴重で高価な値が付けられる。何より霊石の見た目は麗しく、どんな宝石よりも幻惑的な輝きを放つと言われている。しかし、氷室が探しているのは普通の霊石ではなく精霊石と呼ばれる物だった。最も、氷室は霊石も手に入れられるなら手に入れるつもりではある。レストにとって精霊石と名のつく存在は今まで耳にしたことがなかった。氷室の言葉を疑うわけでもないが、それでは半信半疑になる気持ちは拭えなかった。

「……存在するはずだ」

 僅かな間をおいて氷室は断言する。
 精霊石を求めて氷室とレストは物品の流れが盛んな街を訪れて情報収集をしていた。
 そして精霊石ではないが、霊石がエンテアで売買されていたという情報を入手したのだ。

「まぁ、別に氷室が探しているなら俺は手伝うだけだ」
「じゃあ探すか」

 レストと氷室が人々の渦へ入っていこうとした時だった。氷室に声をかけてくる、親切そうで柔和な笑みを浮かべている初老の人物がいた。

「ちょっとそこのお兄さん」
「何だ?」
「あんたの服装からして、契徒だろ?」
「そうだけど」

 契徒の服装はリティーエの民の服装とは違うが故に、契約者でなくとも契徒の判断はついた。だからこそ、氷室も契徒であることを隠すことはしない。第一本当に隠したいのであれば、外見的特徴はリティーエの民と変わらないのだ、服装を変えればいい。そうすれば契徒かそうでないかの判断を外見でつけることは叶わなくなる。


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