U 翌朝、アエリエとレイシャに見送られてレストはレイシャ宅を後にした。人通りの少ない道を進み、街の外へ出るとそこには長身の――この世界では見なれない服装に身を包んだ青年がいた。 「お! 氷室何処に行っていたんだ?」 青年は氷という名前であり、レストが探していた人物で、レストの契徒だ。レストの声に氷室は振り向く、額には怒りが満ちていた。 「え……」 「てめぇ! なんで何時まで経っても待ち合わせ場所に来ないんだよ!」 「は? 待ち合わせ場所に来なかったのは氷室だろ?」 レストが裏路地でアエリエを偶然助けられたのは、近くで待ち合わせしていた氷室が一向に姿を見せないから探しに出た時だった。そう考えれば市民にとっては、氷室がいなかったのは吉だったのかもしれない。 「当然だろ! てめぇ待ち合わせの街を間違えていやがったんだからな!」 「あ、だから地図の構造と街があっていなかったのか」 「気がつけよ、馬鹿か!」 「いやー氷室が古い地図を寄こしたのかと思って」 「そんな意地悪をしても俺に対する損にしかならないだろが……」 氷室はがくりと肩を下ろす。一気に疲れがどっと出てきた。紅桔梗色の髪は少々癖があるのか、下の方で外はねをしている。肩より少し上で切りそろえられた髪には艶があり手入れがされているのが一目でわかる。髪より少し色彩が薄い藤紫色の瞳は怒りを通りこして呆れが見える。灰青のロングコートを身にまとい所々黒のベルトが止められていて、リティーエの民とは異なった服装だ。浮いていそうな人物とレストは氷室のことを称したが、氷室の足はしっかりと地面についていた。 「お前に無理矢理地図を持たせるまでは成功したが、街を間違えるとか、俺の予想を上回りやがって」 「だが、仮に万が一俺が待ち合わせの街を間違えたとして」 「としてでも、万が一にでも、仮にでもねぇ、百%だ!」 「間違えたとして、なんでお前此処の街がわかったんだ?」 一向に自分が迷子であった事実を認めないレストに、氷室はもういいとため息一つ。 「待ち合わせの街を探しまわってもいないから、まさか街を間違えたんじゃないかと思って近隣の街まで来たんだよ」 「あぁ、成程。流石氷室」 「俺を感心するつもりがあるのなら、まずは自分の方向音痴を治せ」 「やだよ、第一俺は方向音痴じゃない」 「街を間違える奴を方向音痴じゃないというのなら、世界中の人は皆方向音痴じゃないな」 氷室は呆れ果ててレストが反論して来る前に歩き出した。本来の待ち合わせ場所であった街に向かって――しかし途中ですぐに歩みを止め、レストの身体を引っ張り担いだ。 「おい!」 「これならお前が迷子になることはない」 氷室から逃げない限りは迷子にはなれないだろう。そしてレストが浮いていそうな人物と称した氷室は実際に浮いて――地面を歩くことなく浮遊して本来の待ち合わせ場所であった街へ向かった。 [*前] | [次#] |