零の旋律 | ナノ

第三話:待ち合わせ場所


「市民にとって、死は見なれた光景と化してしまった、だからこそ支配者の死もまた見なれた光景でしかなかった」

 レイシャは呟く。そこに感情の色はない。彼女らは、レイシャの自宅で唯一本が置かれていないダイニングキッチンの形をしている部屋にいた。そこにはアエリエとレストもいる。外はお祭りどんちゃん騒ぎの最中だ。中心部から離れている位置にレイシャの自宅はあったが、室内まで騒ぎが聞こえてくる。

「支配者の圧政から逃れられ街はバンバンざい、死なんてなかったかのようよね」

 そこには聊か皮肉が含まれている。支配者の圧政が終わり、市民は両手を広げて喜び叫び、泣き喚いた。レストはその様子に顔を顰め、自分に矛先が向く前に姿を眩ませた。
 お祭りが即効で開かれ。支配者の屋敷から様々な高級食材を物色し宴というなのお祭りが開かれた。
 レイシャは興味ないと自宅へ戻る道を選んだ、アエリエもそれに続く。そして自宅の扉を開けると、どうやって侵入したのかレストが本を読んでいたのだ。アエリエはお礼がしたいとレイシャに台所を借り、夕食を作った。レイシャは一口味見をしてその美味しさに感激していた。そして現在に至る。夜も更けてきたのに一向にお祭りは収まらない、明朝まで続くだろう。

「それにしても、貴方が支配者を倒した理由が、私だったとは思わなかったけど」

 最初から諦めて何もしない奴、それはレイシャを指していたことに気がついていた。

「なんかお前の、無理矢理感情を抑え込んで、その感情を引き出すことも忘れるほど現実を認めた奴がいたから、むかついただけだ」
「随分と自分勝手だこと。まぁ貴方があの場で殺されていたとしても、あの契徒が近々契約者を殺す予定だったのなら、結末は変わらなかったのでしょうから、何も問題もないし何も変わらなかっただけでしょうけど」
「かもしれないが一つ。檻は壊せると思うぜ」
「私とは見解が違うようね。例え一つの檻を壊したとしても次に待ち構えるのはそれより少しだけ広い檻、結局檻の中に飼われることは変わらないのよ」
「……そうかよ、でも少しもがけば? 世界が変わるかもしれないぜ」
「下らないわ、けど、貴方がそういうのはひょっとして貴方も嘗てはそうだったということかしら? だとしたら同族嫌悪? よくあることよね、同族嫌悪なんて」

 レイシャは淡々と答える。見えない火花が散っているようでアエリエは唇を僅かに引き攣らせていた。

「まぁ今晩に限りは留めてあげてもいいわよ――まぁアエリエにとっては良かったわね、両手広げて堂々と大通りを是で歩くことが出来るのだから」
「レストさん、有難うというべき言葉ではないのかもしれないですけれど、有難う」
「別に俺は何もしていない、ただ俺がしたかったからしただけだ」
「本当、自分勝手な行動よね」
「お前は本当に一言多いな」
「お前、じゃなくて私はレイシャという名前があることを教えたはずだけど」
「ハイハイ、レイシャ」

 アエリエは二人の会話に笑っていた。心の底から笑えたのは心が安心したからだろう。
 支配者の影におびえて過ごさなくて済む日々がこれから待ち受けている。最も支配者という統率者を無くした以上、今後色々なことが待ち受けて、街が変わっていくのだろうが――それでも今までの現実よりは良くなることをアエリエは信じていた。


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