U 「全ての世界があまねく精霊を有しているわけではない」 ルーシャが淡々と答える。 「故に、世界を世界たらしめる精霊が存在しない世とて無数に存在する。その世界は、精霊がいない世界として成り立っている。リティーエとは違う」 「……そうなのか」 精霊という存在が身近であったが故に、レストは考えたこともない。精霊がいない世界というのを――そもそも、氷室たちが異世界の人間だと知ったのは最近だ。リティーエとは全く別の世界があるとは思っていなかった。 「二手に分かれるぞ……私は左へ進む。悩んでいるよりも進むほうが早い。契徒、お前は右へ進め。あとは任せる」 「……道は?」 「感覚で進む。正確に道案内出来るのがお前しかいないのだ、両方に使わせるわけにはいかないだろう。それともあれか、通信機材を使うか? すぐに手に入れられるのであれば私は構わないが」 「わかった。じゃあ二手へ。通信機材はすぐに手に入れる。ちょっと待っていろ」 この世界の地理に詳しい氷室がすぐさま通信機材を調達してきた。契徒である氷室が街へ赴いたところで怪しまれることはない。浮遊した氷室が戻ってくるまでの時間は短かった。一刻も早くユーティスを助けたいルーシャだが、戻ってくるまではその場に待機していた。 通信機材をルーシャへ渡すと、説明も聞かずに彼は先行する。 「おい、待てよ!」 「通信機材到着までまった。これ以上は待てない」 「いやいや待てって! それの使い方とか!」 氷室の制止はルーシャには届かなかった。 「いくら王様が心配だからって突っ走りすぎだろ」 氷室はため息をつく。 「……では、俺がついていきますね」 「まて、なら俺もいく」 アーティオとベルジュは氷室の返答を待たずにルーシャを見失わないよう走り出した。 「まぁ……精霊術が扱えない精霊と、契術を扱える元契約者、それにリティーエの民ならバランス的にもまぁ……いいか。それにしても、あの精霊は通信機材の使い方も聞かないってことは使えるってことだよな……どういうことだよ。おかしいだろ」 疑惑は益々増大していく。契徒である氷室には及ばなくとも、元契約者で掟破りの契徒から情報を聞いていたベルジュよりも、精霊ルーシャの契徒に関する知識は豊富だった。 「へぇ意外。ベルジュ兄さんなら僕と一緒かなって思ったんだけど」 「そこか、シャルに信頼があるんじゃないか?」 「へへっ。そうかもね〜」 レストの言葉にシャルは呑気に笑った。 [*前] | [次#] |