W 「だから、ついでにアンタを斬ろうって思っただけだ」 「それが可能ならな」 契徒である青年は一向に動く気配がない。支配者が勝つと信頼しているのか、それともどちらでも構わないのか。 レストは支配者の契約術を知らないが、それでもレストは先手必勝と地面を蹴る。 支配者が手を上に掲げると、砂が無数に姿を現し砂は槍を作り上げた。 砂の槍と氷の剣がぶつかる。砂は氷の水分を吸おうとしていが――レストは砂そのもの氷で凍らせる。手にまで氷が纏い冷たさのあまりレストに対し無防備になってしまった。 砂の力で、契約術で支配者として恐怖政治を行い続けてきたが、同じ力を持つものに対して支配者はあまりにも実践不足だった。レストの刃が腹部を貫通する。氷の刃は砕け散り蒸発する。支配者を殺してはいない。もう戦えないだろうが、的確な治療がされれば助かる。 「殺さないんだ、甘いね」 青年は支配者が負けたと言うのに表情一つ変えない。 「随分と契徒は薄情なんだな」 「だって、別に契約しただけだし」 そこで初めて青年が椅子から立ち上がった。手にはナイフが握られている。レストがそれの意図を明確に理解する前に――青年は支配者の頸動脈を切った。 血が溢れだし、支配者は次第に意識が遠のき死亡した。 「なっ……! お前何しているんだよ」 支配者の身体からは、白い光がとともに宝玉のような物が出現し、それを青年は集中に収める。それと同時に支配者の生気全てが消えうせたように――まだ温かいはずの身体は色を失った。 「だって、殺さないと俺に力が戻ってこないだろ?」 さも当然のように青年は答える。 契徒、それはリティーエの民に契約を持ちかける存在。その存在が何者かは判明していないが、契徒はリティーエの民に持ち得ぬ力――詠唱をせずに特定の力を扱うことが出来る固有能力をそれぞれが保有していた。 契徒と契約を結んだものを契約者と呼び、契徒は固有能力を契約者に譲渡することが出来た。そして譲渡した能力のことを契約術と呼び、契約術は精霊術とは違い詠唱を必要とせず強力な力を扱うことが出来る。 ただし、契徒はその力の代償として、契約者の死後、その魂を貰い受けることになっている。 「……まぁこいつと契約し続けるのも、そろそろ飽きてきたところだったから丁度良かったよ」 「何を……」 「そろそろ俺もこいつ殺そうかなあーって思っていたところだからさ。手間が省けて助かったよ、有難う」 「お礼を言われる筋合いはない」 「あはっ君もせいぜい契徒に裏切られないように気をつけるんだね、寝首かかれたらさ、死んじゃうから」 砂の固有能力を持つ契徒は自身の身体を砂へ変化させ、そのまま姿を消した。 [*前] | [次#] |