零の旋律 | ナノ

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 ◇アーク・レインドフはささやかな仕返しにほくそ笑む

「よおレインドフ、依頼もってきてやったぞ」

 とても整った顔立ちの男が、レインドフの屋敷にやってきて開口一番そう言った。花壇の花をぼんやり見ていたアーク・レインドフは男の顔を見るなり思わず深いため息をついてしまう。
 
「おっと、酷いな。依頼もってきたって言ってるのに」

「俺はあんたがもってくる依頼は乗り気しないんだ。依頼主は十中八九あの策士様だからな。だいたい……あんたがこなくても別にいいだろう、リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニ」

「だから、リーシェでいいって。しょうがないだろうカサネに頼まれたんだから」

「そこのホスト王子はまた策士に顎で使われたんですか。前々から思っていたんですが、デルフェニ王家の威厳も地に落ちましたね」

「執事のくせにあいかわらず執事らしくない人間に言われたくはないな」

 テラスの椅子に座って悠然と紅茶を飲んでいたヒースリアがその場から一歩も動かずに宣うと、シェーリオルが呆れた様子でため息をつく。しかしヒースリアはそれ以上彼を相手にする気がないらしく、手に持ったティーカップに口をつけた。彼らの会話が一段落した直後、アークが花壇から目を逸らさずに口を開いた。
 
「で、どんな依頼を持ってきたんだ? 花屋みたいな仕事でなけりゃやってもいいぞ」

「随分根に持ってるみたいだな」

「仕事に誇りをもってやってるんだ。畑違いの事をやらされれば不満も抱くさ」

「主のワーカホリックっぷりは異常ですからね。気持ちが悪いくらいです」

「うるせぇ」

 ヒースリアの横やりが気に入らなかったらしく、アークの口がへの字にまがる。主従に見えない主従のやりとりに苦笑しながら、シェーリオルは本題に入った。
 
「アガートラムって地下組織が、リヴェリア国内で魔族を捕らえてイ・ラルト帝国に売りさばいてるようなんだ。この組織をレインドフに壊滅させて欲しい」

「なんだ、あんがい普通の依頼だな」

「どんな依頼だと思ってたんだよ」

「また護衛とか、花屋のマネとか、もしかしたら宅配便のマネでもさせられるんじゃないかと思ってた」

「ずいぶんな予想だな」

「はずれてよかったと思ってるよ」

「じゃあ、受けてくれるんだな?」

「レインドフは依頼を断らないからな」

「そうか、よかった。じゃあ首都まできてくれ」

「は?」

 アークが裏返った声を出すと、シェーリオルは苦笑した。

「いいだろ。観光がてらにでも」

「ここから直接その組織を壊滅させにいっちゃダメなのか?」

「依頼の詳しい内容をカサネから直接聞いて欲しいんだよ」

「えー」

「えーとかいうな」

 心底嫌そうな顔をするアークをなだめるようにしてシェーリオルは言う。
 
「旅費はこっちが持つからさ、使用人全員でついでに観光でもしてってくれよ」

 第二王子の言葉に、先程まで無関心を決め込み紅茶を飲んでいたヒースリアが非難めいた視線を送る。アークは、
 
(そういえばこいつはカサネが嫌いだったな)

 という事実に思い至り、日頃のイヤガラセのお礼も兼ねて
 
「じゃあ、全員で観光がてらに」

 と言って、シェーリオルの提案に頷いたのだった。

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