零の旋律 | ナノ

あーや様からお相伴企画


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メゾン・ド・リリー205号室。ノハ・ティクスは何やら熱心に台所に向かっていた。
手元には、先日立ち寄った書店でたまたま見つけて買ってきた料理本がある。読むと結構面白いもので、そうすると今度は作ってみたくなるのが性だ。深めの鍋の中で肉や野菜がぐつぐつと音を立てている。本来長い間煮なければならないそれを、短い時間で美味しく出来るというのがこの料理のコンセプトらしい。
柔らかく煮えてきた野菜を摘み上げ口に入れる。確かにじっくりと煮込んだような味がする。突然思い立って始めたにしては上出来なものができた実感があった。しかし、鍋いっぱいに作ってしまったそれは、一人暮らしの身には多すぎた。まぁアパートの住民や、よく押しかけてくる幼馴染みにおすそ分けすればいいかな、と考えていると、部屋のチャイムが鳴った。

「はい」

ノハはその場から動かずに答える。

「ノハ、今大丈夫かしら?」

扉の向こうから聞こえたのは、同じ花神楽高校の同じ3年生、リックス・ウェグレーの声だ。確か108号室の住民だったはずである。ノハは一旦鍋の火を止め、玄関に向かった。鍵を開け扉を開けると、リックスがタッパーを持って立っていた。

「突然ごめんね。…忙しかったかしら?」

リックスはノハのエプロン姿を見て申し訳なさそうに言う。

「大丈夫、もう出来たところだったから。どうしたの?」
「あのね、田舎からたくさんお野菜が届いたらしくて、この間私のところにもたくさん来たのよ。で、そのままで腐らせちゃうともったいないからって、一度に料理しちゃったの。そうしたら案の定食べ切れなくて…今みんなにおすそ分けしてるところなのよ」

リックスが差し出したタッパーには仕切りがあり、一方には葉物のおひたしが、一方には野菜炒めが詰まっていた。

「ちょうどよかった。ちょっと待ってて」

ノハは部屋の中に戻っていって、適当な皿にできたての煮物をよそう。それにラップをかけると、玄関に戻ってきた。

「僕もたくさん作っちゃったのどうしようかなって思ってたんだ。これ今日のおかずにでもしてよ」
「あら、ありがとう!美味しそうね!」
「うん、さっき味見したけど美味しかったから多分大丈夫」
「じゃあ交換ね」
「そうだね」
「お皿、洗って返すわ」
「ありがとう、こっちも洗って返すから」

会話は完全に奥様方の近所付き合いだがしているのはうら若い18歳の男女である。

「それにしても美味しそう…ご飯が進みそうね」
「あっ」
「どうしたの?」
「ご飯炊いてない」
「あら」

夕飯まではもうしばらくかかりそうだ。



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あーや様のお相伴企画参加させて頂きました!
学パロのノハとリックスさんのコラボです。

何処の奥様ですか!と思ったら、高校生でした^^二人ともいい奥さん(一人性別違うけど)になれそうだなーと読みながら思いました。
ノハの最後ご飯炊いてない所とか何かぼけている感じが可愛いです。
今後もリックスさんとノハは度々おすそ分けを繰り返していってほしいなと思ってます。

この度は書いて下さり有難うございました。

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