零の旋律 | ナノ

和泉様から「だからこそ僕達らしい」


 ふとした瞬間、思い描いてしまう未来。
 想像すると有り得なくて、おかしくて、思い切り笑い飛ばしたくなる。

「ねえ、千朱ちゃん」

 くすくすと笑いながら呼びかけた水渚に、振り返った金の瞳が訝しげに細められた。

「何だよ」
「あのさ」

 言いかけて、やめる。次の言葉は喉に引っかかって出て来なかった。
 だって、やっぱり馬鹿げている。

「やーめた」
「おい!」

 くるりと背を向けると、怒ったような声が背中に突き刺さる。呆れ混じりの声に水渚は小さく笑った。

「ねえ、千朱ちゃんは僕のこと嫌いなんだよね?」
「ああ。お前もだろ」
「うん、大嫌い」

 嫌いと言い合いながら笑うなんて端から見たらおかしいに違いない。それでも二人にはこれが日常だ。
 だから――。

(やっぱり有り得ない)

 二人並んで街を歩いて、笑っている姿なんて。そう、まるでごく普通の恋人同士のようなそんな光景は、現実にはあるはずがない。

「千朱ちゃん」
「だから何だ」

 鬱陶しそうに、それでも律儀に千朱は返事をする。
 だから、こんな考えが浮かんでしまうのだろうか。

「嫌い嫌い。大っ嫌い」
「はあ?」

 歌うように繰り返せば、千朱の眉がつり上がる。そう、それでいい。

「安心しろよ。俺も嫌いだ」
「……うん。ありがとう」

 にっこりと水渚は笑った。
 千朱の顔が、怒りと困惑で歪む。それがまたおかしかった。

「やっぱり、落ち着くね」

 これでいい。
 そう思いながら、水渚はちくりと刺す痛みに蓋をした。


end


------
和泉様から緋色の水渚と千朱のCPを書いて頂けました!

も、もどかしいです! 切なさともどかしさ、そして二人のいつも通りの関係性が現れていて興奮しっぱなしです。読み終わって最初に戻ってまた読んで〜を何度も繰り返してはニヤニヤしていました。
嫌い嫌い言い合う水渚と千朱の二人が可愛いくてたまりません……!!

この度は素敵な小説有難うございました。

- 8 -


[*前] | [次#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -