零の旋律 | ナノ

丹飴様から「街でお買い物」


「おい、リアトリス。あれなんて良いんじゃないか?綺麗だし」

「うーん……駄目ですね。装飾が華美すぎて、カトレアには似合いません。まったく、もうちょっと真剣に選んで下さいよ、主!」

 晴れ空のもと、そう言ってアークの背中を叩いたのはリアトリスだった。珍しく今日はヒースリアもカトレアも一緒にはいないようで、完全に二人のみで、街まで買い物へと来ていた。

「いって!おい、今思いっ切り叩いただろ!……というか、大体こういうプレゼント選びなら、俺よりヒースの方がセンスありそうだろうに……。何で俺なんだよ」

「あはは、愚問ですね!もし家に主を残してきて、カトレアに何かあったら可哀想だからに決まってるじゃないですか!ヒースリアも快く賛同してくれましたし」

「お前ら、俺を一体なんだと……!」

 恐らく行われたのであろう二人の会議の様子を想像してアークが頭を抱える中、リアトリスは真剣な眼差しで屋台に並んだブローチやイヤリングを眺めていくが、納得がいかないのか首を捻る。

 先程から探しているこれはカトレアへの秘密のプレゼントとのことだったのだが、これがなかなか良いのが見つからない。かれこれ二人は二時間ほどこの辺りをグルグルと歩き回っていた。

「なぁ、それなら今日はもう諦めて帰ったらどうだ?そろそろ日も暮れるし、それこそカトレアが心配するぞ」

「うぅ……でも……」

 アークの言葉にリアトリスは一瞬迷いを見せるが、それでも目は屋台の方へと向けられている。

 ――しかしそれから間もなくして、彼女の目がある一箇所で止まった。

「あっ、主!あれが良いです!」

 リアトリスの指さした先を見やると、綺麗な黄色と橙色の石の付いた花のブローチが一点、日の暮れかけた夕焼け空の優しい明るさを反射してそこに並べられていた。

「ほう……これは綺麗だな……」

「これならカトレアにもピッタリですよ!さぁ主、今こそ硬い硬い財布の紐を緩めるチャンス!」

「って、俺が払うのかよ!まったく、そういうところだけちゃっかりしてるんだからよ……」

 目を輝かせるリアトリスにアークは思わず溜め息をつくが、彼女は「違いますよぉ」と言って腰に手をあてる。

「これは、私と主からってことです。私が選んで、主が買った、世界でただ一つのプレゼントなんですよ!そんなことも分からないんですかー?」

 にこにこと彼女が笑顔を見せると、アークは仕方ないというようにリアトリスの手にしたブローチを買ってやる。もちろん、予想よりも幾分高かったのだが。

「ありがとうございます、主!きっとカトレアも喜びますよー!」

「あぁ、それは何よりだ。……さて、じゃあ買うものも買ったことだし、そろそろ帰るとするかなぁ。行くぞ、リアトリス」

「あっ、待って下さいよ馬鹿主ー!」

 さっさと歩いて行ってしまうアークの後を、慌てたようにリアトリスが追いかける。この時、彼女の心の中はやはり、最愛の妹のことでいっぱいだった。

 ――出来ることなら……

 ――次はみんなで来ようね、カトレア。



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丹飴様にアークとリアトリスの話を書いて頂けました!

レインドフ家の日常の一場面に癒しと元気を頂きました!アークとリアトリスが買い物をしている風景が拝読しながら脳裏をよぎっていきます。
名前だけなのに存在感のあるヒースリアやカトレア。
レインドフ家の楽しい日常を有難うございます!!
次は皆で買い物にいけばいいと心底思いました。

この度は素敵な小説を有難うございます。

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