零の旋律 | ナノ

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「全く…何処までもふざけているというか、私達を馬鹿にしているというか…。面倒なので、あのぬいぐるみさっさと殺っちゃいましょう」

「俺もあの子の遊びに付き合っていられる程暇じゃないし…そうだな」

しれっと事も無げにそんな会話を交わす2人であるが、その内容は物騒極まりないもので。
しかも、この2人が揃うとどうにも腹黒さが倍増するような気がするのが、さらに始末に負えない。

「ちょ、オイっ! 何2人して爽やかな顔して物騒な事しれっと言ってんだよこの腹黒王子どもがっ!」

「だって面倒じゃないですか、さっさとぬいぐるみを始末すれば、あの少女の気も済む事でしょう。そういう事ですから、貴方は囮でもやって私達をぬいぐるみの注意から逸らせて下さい」

思わず突っ込みを入れるユトナなどお構いなし、さらに腹黒発言をぶちかますロゼルタ。
ユトナは苛立ちと不快感をぶつけるようにロゼルタを睨み付けるものの、応戦するより他無いと判断したのか武器である双剣を構えると力強く地面を蹴りぬいぐるみの方へと駆け出していった。

「ふふっ、この子もお兄さん達と一緒にあそべて楽しいって! いいな〜、アリスとも後で一緒にあそんでね?」

この殺伐とした状況を目の当たりにして、何故少女はこんなにも場違い且つ無邪気な発言が出来るのか。
それだけでも、少女の歪んだ感情が垣間見えたような気がする。

「だーかーら、もう此処まで来たら遊んでるレベルじゃねーっつーの!」

最早、付き合わされる身にもなってくれ、とでも言いたげに苛立ち紛れにそうぶつけると、そのままの勢いでぬいぐるみに手にした刃を一閃。
しかし、何か固いものに弾かれるような気がして眉をしかめるユトナ。

「な…んだよコレ、ぬいぐるみの癖に固ぇぞ!」

ユトナの放った斬撃は、いともたやすくぬいぐるみの腕に受け止められてしまったのだ。
しかもその腕は鋼鉄のように固く、ファンシーな外見とは似ても似つかない。

「……っ!」

暫く鍔迫り合いを繰り返していた両者であったが、最終的に力で押し切ったのはぬいぐるみ。
まるで鈍器のような腕を大きく振り切って、ユトナの身体を易々と後方へ吹き飛ばしてしまった。

──刹那。
大きく振りかぶって隙を見せたぬいぐるみの背後へ迫り来る影が一つ。
殺気に気づいて振り返るも時すでに遅し、すでに槍を手にしたロゼルタが眼前まで迫り来ていた。

高く振り翳した槍を振り下ろし、ぬいぐるみの頭上から脇腹辺りにかけて斜めに大きく切り裂く。
確かな手応えを感じたものの、それはといえば少しよろけてたたらを踏んだだけに終わった。
そして、攻撃を受けた事でご機嫌斜めになったのか、狂ったように猛り叫びながら、無闇に腕を振り回してみせる。

「全く…可愛らしいくまのぬいぐるみとは似ても似つかない程の凶暴ぶりですね。…そういえば、熊は元々獰猛な性格でしたっけ」

繰り出される攻撃を紙一重で躱しつつ、呑気な感想を漏らすロゼルタ。
不意に何かを感じ取ったらしいロゼルタの眉がほんの僅かに吊り上がるものの、ぬいぐるみがそんな微弱な変化に気付ける筈もなく。
その瞬間、ロゼルタが身体を僅かに横にずらした。

一閃。
ロゼルタの背後から一直線に光り輝く軌道が伸びてゆき、その軌道の先にある光の槍の切っ先はぬいぐるみの身体を貫いて風穴を空けていった。
光の槍は魔法によって生み出されたものらしくぬいぐるみの腹を突き抜けた直後に消えてしまったが、ぬいぐるみに致命傷を与えそれはそのまま力なくその場に倒れ込んだ。
そして、魔力が切れたのかは定かでは無いが、ぬいぐるみはみるみる小さくなり元の大きさに戻ってしまった。


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