零の旋律 | ナノ

V


「……ところで」

先程のやり取りで何か気になる事でもあったのか、最初は少年をさりげなく一瞥してから、シェーリオルの双眸は青年へと向かう。

「もしかして、君は何処かの国の王子…とか?」

不意に予想だにしなかった問い掛けをぶつけられ、自分を指差しながらきょとんと首を傾げる青年であったが、すぐに社交的な作り笑いを顔に貼り付ける。

「ええ、一応某国の王位継承者です。…勿論、嫌味王子では無く民の事もきちんと考えておりますよ?」

「……ケッ、どーだか」

どうやら先程の少年の台詞を根に持っていたのだろう、青年の放った言葉にそこはかとなく棘を感じるのは最早気のせいではあるまい。
苦虫を噛み潰したような表情でボソッと反論する少年をよそに、シェーリオルといえば何処となく嬉しそうな表情を浮かべる。

「ああ、やはりそうだったか…奇遇だね、俺も一応一国の王子なんだ。こうして別の世界の同じ立場の人間に出会えるとは思わなかったよ」

「ほう…貴方もでしたか。これは興味深いですね。全く別次元に、同じように国があり同じように王子と言う立場の人が居るとは…。私は運命と言った都合のいい幻想は一切信じておりませんが、こうした邂逅を目の当たりにすると運命というものも多少は現実味を帯びてきたような気がしますよ」

「そうだなー…俺もそう言った類のものは信じていないけど、こういう事もあるんだな」

どうやら同じ立場にある者同士、何か通じ合うものがあるのだろう、まだ名前すら名乗っていないというのに意気投合仕掛けている様子。
一方、少年と言えば目の前に居る人物はどちらも自分にとっては雲の上の存在、鳩が豆鉄砲食らったような顔をぶらさげて2人を交互に見やる。

「え…ま、マジかよ2人共王子かよ!? 何なんだよ、訳わかんねー組み合わせだな。…って、だとしたらますますオレのさっきの行動やべーじゃん…!」

今更顔を青ざめてみても、最早後の祭り。
しかし、シェーリオルの反応と言えば拍子抜けしてしまう程あっけらかんとしたもので。

「ん? ああ、それなら尚更気にしないでくれ。王子だからって特別扱いされたくないし…普通に接してくれて構わないから。そもそも、自分には王子なんて身分重すぎるくらいだし」

「成程…そのお気持ちはとてもよく分かりますよ。公の場に出る時は王子の仮面を被らなければならないですし、普通に生活をしているだけで息がつまりそうですよ。…まぁ、適度に息抜きはしていますが」

「へぇ、やっぱり何処の世界でも王子っていうのは皆そういった苦労を抱えるようだな。俺は王位を継ぐつもりもないし、気楽に接してくれた方が有り難いんだけど」

「おや、貴方は王位を継がないのですか? それは羨ましいですね…私には王位継承を退く選択肢すらありませんから」

何時の間にやら王子の苦労談にまで話が発展しているらしい。
普段、同じ立場の人間と話す機会など皆無なのか、自分の気持ちを分かってくれる相手に出会えたのが嬉しいらしく話題は尽きない。
だが、そんな中で蚊帳の外に放り出されてしまった少年だけは、話に全くついていけず不満そうに頬を膨らませてむくれてみせた。

「だーもうっ、王子の苦労話なんざどーでもいいっつの! …ってか、お互い自己紹介すらしてなかったよな。ま、これから多少なりとも運命共同体になりそうだし仲良くやろーぜ」

痺れを切らした少年が話題を半ば無理やり切り替えた事で、そういえば互いに名前すら名乗っていなかった事に今更気づく。
王子の青年はロゼルタ、そして少年はユトナと名乗った。
しかも、ユトナは男装こそしているものの本当は女性であり、色々と事情があって男のフリをしているらしい。
それを知っているのは彼女の極親しい知り合いだけなのだが、別次元の住人であるシェーリオルには知られても問題無いと判断した為、本当の事を説明したらしい。
その後シェーリオルも自分の名前を名乗った後、本名で呼ばれるのはあまり好きではないのか2人に“リーシェ”と呼ぶように付け加える。

さらに、互いに自分達が暮らしている国や街などの名前を説明するも、やはり互いに初めて耳にする単語ばかり。
全く別の世界から此処に飛ばされてきたのは、最早確定したといっても過言では無いだろう。

「…さて、私達の現状は大体把握出来ましたが、問題はこれからどうするか、ですね…」

「まずはこの空間の支配者…ひいては俺達を此処に連れてきた張本人を探すのが一番手っ取り早いんじゃないかな」

「ですが、今の所私達以外に誰かがいる気配は無いですし、果たして本当にいるのかどうか…」

「あーったく、ごちゃごちゃ考える前にこの城みてーな所全部回ってみりゃいいだろ。…あ、向こうになんかデカい扉があるじゃん。もしかして、アレが出入り口なんじゃねーか?」

シェーリオルとロゼルタが互いに神妙な表情を浮かべて喧々諤々と意見を交わす中、こういった頭を使う作業が大の苦手であるユトナはいち早く痺れを切らしたのか、苛立ち紛れにそう言い放ってから辺りをうろうろすれば、彼女の眼前に広がるのは観音開きの豪華な装飾が施された大きな扉。
後先考えず、まるで鉄砲玉のように扉へ向けて駆け出していった。



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