零の旋律 | ナノ

和泉様から「微睡みの夜、目覚めの朝」


 もう随分と夜も更けた。一般的な人々ならとっくに夢の世界へ旅立っている刻限。
 その中で、標葉は未だ眠れずにいた。
 べッドに横たわってはいる。一度眠りの淵につきはしたのだ。そこから引き戻したのは――今隣ですやすやと眠る少女だった。

「俺は抱き枕か」

 思わずそう呟く。
 ぎゅうっと遠慮なくしがみついてくるクロアを睨んでみるものの、とっくに眠りについている少女が気付く筈もない。
 満足に寝返りも打てない状態で、自由な右手で頭を掻く。

「……?」

 ふと、その手が止まる。呼ばれた気がした。
 けれど、振り向いた先にあるのはあどけない寝顔。気のせいかと天井に視線を戻そうとした時、また声がした。不明瞭なそれは、間違いなくクロアの唇から出たものだ。

「……おやすみ」

 手を伸ばし髪を撫で、標葉はそっと囁いた。
 ――よい夢を。


―――


 カーテンの隙間から差し込んだ陽光が朝を告げる。
 起き上がったクロアは、一度大きく伸びをして薄暗い室内を見回した。その視線は隣で眠る青年で止まった。
 あまりにも静かで、本当に寝ているだけなのか確かめたくなる。じっと眺めながらその距離は徐々に近くなっていく。
 今、彼が目を覚ましたとしたら、きっと驚くに違いない。そしてまた少女を叱るのだろう。
 容易に想像できて、クロアは笑った。

「まだ起きないのかな、標葉?」

 息がかかるほどの距離でくすくすと笑いながら呟く。その直後、穏やかだった寝顔がふいにしかめられ、何事かを呟くように唇が動いた。

「一体どんな夢を見てるんだ?」

 タイミングの良さに目をみはり、クロアは身を起こした。
 紡がれた寝言が自身の名に聞こえたのは気のせいだろうか。

「まあ何でもいいが早く起きてくれよ」

 そう言って欠伸を一つ。
 ――さあ、日常を始めよう。


END
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和泉様よりENDfateの標葉×クロアの小説を書いて頂けました!

朝と夜の展開に胸がときめいています。クロアと標葉がお互いにお互いを想っている心が伝わってきて、たまりません……!
標葉はクロアの抱き枕になってしまえばいいと終始思っていました。
クロアが標葉に近付く場面とかもう好きすぎて、萌えます。

この度は素敵な小説を有難うございました。

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