零の旋律 | ナノ

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何か打開策はないものかと思案を巡らせるシェーリオルをよそに、石像達は無情にも攻撃をしかけてくる。
狼の姿をした石像が一心不乱に飛び掛かってくるのを回避しつつ、シェーリオルの視界の隅にちらつくのはこれらの石像を操っている男の姿。

刹那、シェーリオルの脳裏を過ぎる一つの妙案。
迷っている暇は無い、そう判断した時にはすでに自分の傍らで奮闘するユトナにそっと耳打ちをしていた。

「…シノア、俺が合図したら出来るだけ高く跳んでくれないか」

「んぁ? 何だよソレ、何でそんな事しなきゃなんねーんだよ?」

「理由は今は言えないんだけど…でも、現状を打破出来る筈なんだ。…協力してくれないか?」

理由を問われると言いづらそうに口籠ってしまうシェーリオル。
しかし、彼の双眸に宿る光は力強く、そして揺るぎ無い決意を秘めていて。
その眼差しに吸い込まれるように一瞬凝視した後、話してくれない事に関しては拗ねているのか口を尖らせながらも、ポツリとこうこぼすユトナ。

「……しょーがねーな、信じてやるよ。その代わり、ふざけた事しやがったら許さねーから……っ!?」

言い終わるより先に、無機質な石の瞳をぎらつかせながら2人に襲い掛かる石像。
鋭い爪が空を斬り裂き、2人の眼前にまで迫り来る。

すぐさま爪の軌道を見切ったユトナは回避しようと思えば幾らでも出来る筈なのに、あえてその場に踏みとどまり手にした短剣を盾代わりにして石像の爪を受け流す。
…とはいえその衝撃は凄まじく、ビリビリと痺れが腕を駆け巡り吹き飛ばされそうになるも必死に両足に力を込めて耐え凌ぐユトナ。

「ぐっ…いってーな、石像の癖に馬鹿力とか何なんだよ。…リーシェ、任せたからな!」

苦しげに呻き声を上げてから、シェーリオルの方を振り返りもせずにそう言い放つや否や石像達の方へと駆け出してゆく。
そんな彼女の背中を見遣りつつ、シェーリオルの脳裏に浮かぶのは一つの仮説。

(まさか…今躱さなかったのは、俺を庇ってくれたのか…?)

自惚れかもしれない。勘違いかもしれない。
けれど、何故か無性に心の奥底がくすぐったく感じるのは、気のせいではあるまい。
今の自分に出来る事、それはユトナの信頼に応える事。
そう結論付けたシェーリオルは石像達に向き直ると、早口で詠唱を始める。
これから大規模な魔導を発動させる為、今までのように詠唱無しという訳にはいかないようだ。

石像の攻撃を一身に引き受けようと孤軍奮闘するユトナを横目で一瞥した後、遂にそれは完成した。

「…シノア、今だ!」

「……!」

高らかに放たれたシェーリオルの声は、凛とした強い意志を秘めていて。
一方、ユトナと言えば彼を見遣る事無く地面を強く蹴り上げまるで羽ばたく鳥のように高く飛翔した。

──刹那。
シェーリオルがその場に跪き両手を地面に翳すと同時に、辺り一帯の大地を揺らす巨大な力が生み出される。
まるで地面を掻き回すような魔導の力は大地を砕き、凄まじい地震を巻き起こした。

当然、その上に立っていた石像達はまともに立っている事さえままならず、バランスを崩してその場に転倒するものもいた。
そう──丁度タイミング良く跳躍していたユトナを除いて。

「うわ、すっげーなコレ…よっしゃ、後はオレに任しとけ!」

シェーリオルの真意をようやく汲み取る事が出来たユトナはニヤリと口角を吊り上げれば、重力に従って地面に引き寄せられると地震で足を取られている石像の頭を踏み台にして再び跳躍。
ユトナが狙うはただ一つ、石像を操る張本人──…

「でりゃあああぁっ!」

太陽の光を反射して、刃が妖しい光を放つ。
男の頭上から手にした短剣を振り下ろし、男の肩から脇腹に掛けて深々と斬り裂いた。


そのまま地面に着地。
…と同時に、傷口を押さえ忌々しげにユトナを睨み付けた男は、その場に力なく崩れ落ちた。

「よっしゃ、ざまーみろってんだ! …あ、そういや石像は…」

「石像なら動きを止めて只の石像に戻ったよ。それにしても、これ程までに上手く行くとはね」

キョロキョロ辺りを見渡すユトナの背中に声を掛けるのは、安堵の表情を浮かべるシェーリオルだ。
確かにこの案を立てたのは彼自身ではあるものの、こんなにも思い通りに事が運ぶとは思いもよらなかったようだ。

「さっきの地震、リーシェがやったんだろ? それにしても考えたよなー、足止めして石像を操ってる張本人だけを狙うっつーのはさ」

「ああ、でも事前に相手に気付かれてしまっては元も子もないから、君にも言えなかったんだ。ほら…それに言うだろ? 騙すならまずは味方から、って」

「ケッ、言ってくれんじゃねーか。けど、リーシェにすんなり騙されて良かったぜ。それに…信じてたからな」

「それを言うなら、俺もユトナなら協力してくれるって、信じてたよ」

そこで一旦言葉を途切れさせ、互いに引かれ合うように顔を見合わせる2人。
何だか急に可笑しくなって、胸の奥がくすぐったくなるのを感じで思わず2人の口元には笑みが零れ落ちる。

出会ったばかりの付け焼刃なコンビだけれど、案外悪く無いかもしれない。
そんな思いが、2人の心を突き抜けていった──…


◆◇◆


その後、互いの道は交わる事無く呆気なくコンビは解消となってしまった2人であるが。
後に、シェーリオルが実は一国の王子である事実を知ったユトナが戦慄する羽目になるのだが…それはまた別の話。


END.



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天空朱雀様のサイトが150000hitを迎え、記念企画を実施されていたので、速効飛びいてコラボ共闘SSをお願いしたのは私です。
シェーリオル(F)と天空様宅のユトナさんとのコラボです。

ユトナさんの、一途で活発で、一直線な性格と、飄々としたシェーリオルのやり取りが面白かったです。即席の共闘だから最初は上手くいかないけど、最終的に見事な共闘を決めた話に一人萌えていました。
臨場感あふれる戦闘シーンや、情景描写にその場の場面場面がすぐにイメージとして浮かんできました…!

この度はコラボSSを有難うございます。そして150000hitおめでとうございました。

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