零の旋律 | ナノ

V


流石に、付け焼き刃のコンビでは土台無理があるという話か。
しかし、此処で言い争いをしている暇はない。

「…とにかく、こうして協力してるんだから連携した方がいいと思う。そういえば、シノアの武器は?」

「ん? オレの武器は剣だぜ。思いっきり暴れてーからな」

「成程…俺はどちらかといえば遠距離からの攻撃の方が得意だし、前衛は任せたよ」

「おう、派手に暴れてやっから任しとけよ」

「…いや、派手に暴れる必要は無いと思うんだが…」

ニカッと悪戯っ子のような満面の笑みを浮かべるシノアに対し、呆れたような口調でボソッと突っ込みを入れるシェーリオル。
暫くそんな鬼ごっこを続けていたが、一同が向かった先は袋小路の広場。
周りを高い壁で囲まれている為、入り口以外の場所から抜ける事は不可能。

「よっしゃ、ようやく追い詰めたぜ。それにしても、わざわざ行き止まりに自分から行くなんざ馬鹿な奴だぜ」

「しかし…出来すぎていないか? どうも、此処に誘い込まれたように思えるんだが…」

鼻息荒くいきり立つユトナに対し、話が上手く行きすぎていることに不信感を募らせたのか訝しげに眉をしかめるシェーリオル。
すると、今まで背中だけを見せてきた男が突如振り返ったのだ。
2人に追い詰められているにも関わらず、男の表情には絶望どころか何処か自身に満ち溢れてさえいて。

「…フン、しつこい奴め…。俺が何も考えずに袋小路に逃げ込んだとでも思ってんのか? てめぇら煩いハエを殺してから悠々逃げ切ってやるぜ」

「はぁ? 誰が煩いハエだてめぇ! オレらを殺すだと!? やれるもんならやってみやがれ!」

「…シノア、向こうの安い挑発に乗るなよ」

狂気に満ちた双眸を向ける男の簡単な挑発に引っかかったのか、眉を吊り上げながらまるで猛獣の如き勢いで怒鳴り散らすユトナ。
その一方で、シェーリオルといえばいつもの飄々とした態度を全く崩そうとはしない。

「それだけの自信があるって事は、そっちには何か秘策があるって事だろ? そうじゃなきゃ、わざわざ袋小路に自らを追い詰めたりはしない」

「…へぇ、そっちの金髪の兄ちゃんは多少頭は回るようだな。その通り…この俺がてめぇらを此処に誘い込んだんだよ。石像が沢山設置してある、この場所にな」

「石像…? どういう意味だ?」

確かに、この広場にはオブジェとして様々な動物や幻獣の石像が置かれてはいるものの、それが一体どうしたというのか。
訝しげに首を傾げるシェーリオルであるが、男の放った言葉の真意をこの直後嫌と云う程思い知る羽目となる。

男が何か詠唱したかと思えば、石像達の瞳が妖しく光り輝くと同時にまるで魂を吹き込まれたかのように動き出したのだ。
これには2人共驚きを隠せない様子。

「ぬおっ!? ななな、何だよコレ!? 何で石像が動いてんだよ!?」

「成程ー、これが余裕綽々だった理由か。多分、石像を動かし意のままに操る魔法か魔導を使用したようだね。全く、とんだ奥の手を使われたものだ」

目を白黒させて鳩のように口をパクパクさせるユトナに対し、まるで本物の生き物のように滑らかな動きを見せる石像を観察しつつ、飄々とした口調でぼやくシェーリオル。
シェーリオルも彼なりにこの緊迫した事態に焦りを感じてはいるものの、表面上に出ているのはいつもの穏やかな態度の為、どうにも緊迫感が伝わってこないのは否めない。

「…っておいコラリーシェっ、何呑気にのほほんとしてんだよ!?」

「いやいや、別に俺はのほほんとなんてしてないけど」

「そうか〜? まぁいいや、とりあえずこの石像全部ぶっ飛ばしちまおうぜ!」

自分から話しかけておきながら会話を面倒に感じたのか一方的にさっさと切り上げると、所持している二つの短剣を両手に構えるなり石像達の方へ駆け出してゆく。
飛龍型の石像が繰り出す鉤爪を横に跳んで回避、そのままの勢いで地面を蹴り上げ低い体勢で一気に石像の間合いに踏み込むと、下から上へ掬い上げる様に刃を振り翳した。

確かな手応えを感じた。石像の翼を斬り付けた筈──なのに。
石像といえばまるで動じない素振りで大きく羽ばたけば、その凄まじい衝撃波にユトナは吹き飛ばされてしまう。
何とか空中で体勢を整え受け身を取ると、次いで後ろに跳んで体勢を立て直す事にしたようだ。

…と同時にシェーリオルが詠唱もせずに魔導を発動させる。
魔石が光を放つや否や、石像達の頭上に電撃の雨を降らせる。
凄まじい稲妻が石像達の身を焦がしそれらの足を止めるも、それは一瞬だけで再び石像達は何事も無かったようにけたたましい咆哮を上げたのだ。

「……っ、やはり駄目か…」

「何だよアイツ、ぜってー攻撃当たった筈なのに、何でケロッとしてんだ?」

「まぁ、生物では無いからね…おそらく、羽根が千切れようが腕が斬り落とされようが、こちらに一心不乱に向かってくると思う。跡形もなく粉々にするか…それとも術者を倒すしか止める術は無いだろうね」

冷静に分析を行っていたようで、自らの仮説を零すシェーリオル。
一方でユトナは忌々しそうに舌打ちをした後男の方へと視線をずらせば、おそらくそこまで読まれる事は想定内だったのだろう、自分を守る様に巨大な石像を立たせて盾にしているようだ。



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