零の旋律 | ナノ

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「しかし…そうと分かれば尚更見過ごせないな。このまま取り逃がせば、最悪この街の住人に危害が及ぶ危険性がある」

「…何だよオマエ、爽やかにサラッとカッコいい事言いやがって。無駄に爽やかすぎてキラキラしすぎだっつのオマエ」

「…いや、何だその訳の分からない理屈は…。そもそも、別に俺は爽やかじゃないし」

言い淀みなくきっぱりと言い放ったシェーリオルの言葉がよっぽど爽やか且つ凛としたものに映ったのか、ある意味理不尽な言いがかりをつける少年。
思わず突っ込みを入れつつも、そういえば自己紹介さえまだしていない事に気付いたようで、

「そういえば…まだ名前を言っていなかったな。俺はシェーリオルだ。長いから呼ぶ時はリーシェでいいよ」

「ふーん…リーシェだな、分かった。オレの名前は……シノアってんだ。まぁ好きに呼んでくれ」

少し言い淀んでから、何処か余所余所しい雰囲気で自分の名を告げる少年。
それもその筈、彼──否彼女の本来の名では無いからだ。
少年の本当の名はユトナ、しかも少年である事さえ偽りの姿。
本来は少女なのであるが、色々と事情があって男装しているらしい。
故に一瞬本来の自分の姿を告げようか否か悩んだ結果、後でややこしくなる事を避けたのか男の仮面を被る結論を導き出したのだ。

シェーリオルもそれを鵜呑みにしているようで、特にユトナを追及する事もせず。
その一方で、ユトナもまたシェーリオルが一国の王子である事にさっぱり気づいてい無いようだ。
暫く街を疾走していると、視界の遥か前方に何かが映り込んだらしいユトナが盛大な声を張り上げた。

「あああぁぁっ! アイツだアイツっ、やっと見つけたぜあの野郎…!」

その言葉に、シェーリオルの顔つきも一変する。
必死に目を凝らしてみれば、確かに見覚えが──しかもつい最近見たばかりの背中が視界に飛び込んできた。

「確かに、俺がさっき見た男で間違いない。このくらいの距離なら魔導も届きそうだし…」

此処は共同戦を張ろうと傍らを走るユトナに声を掛けようと視線を真横にずらすも、そこに彼女の姿は無く。
すぐさま視線を彷徨わせれば、男を見つけた事で頭に血が上っているのか前方でがむしゃらに全力疾走するユトナの背中を捉えた。

こうなれば先手必勝、と言わんばかりに詠唱無しに魔導を発動。
シェーリオルのつけている髪留めにはめ込まれている魔石が妖しい光を放てば、突如光の刃が生み出され男の背中目掛けて一直線に向かってゆく。
……筈だったのだが。

男の後ろ姿に被る様にして、ユトナがいきなり走る軌道を変換してきたのだ。
おそらく、シェーリオルが魔導を放った事にまるで気づいていないのだろう。

このままではユトナに光の刃が当たってしまう──…! そう判断したシェーリオルは瞬時に光の刃の軌道を変え、それらはユトナの背中を擦り抜けてすぐ傍の壁に深々と突き刺さった。

「フラフラ走らないでくれるか? これではあの男に狙いをつけられない」

「え? 何の話だよ?」

「今、壁に突き刺さった光の刃を見ただろ? アレ、本来ならあの男に当てる筈だったんだけど、君がいきなり前に飛び出してきたから…」

「マジかよ、全然気づかなかったぜ。つーか、こっちは前しか見えねーんだから後ろでオマエが何してるかなんか見えねーし。だったら、『これから魔術使うぞー』とか言えばいいじゃねーか。…って、そういやオマエ魔術師だったんだな」

「それじゃあ男にも気づかれてしまうだろうが。…ん? ああ…正確に言えば魔導師だけどな」

ユトナの自由奔放な態度には非難の言葉を浴びせずにはいられなかったようで、思わずジト目で突っ込みを入れるシェーリオル。


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