W けれど…心の何処かでは分かっていたのかもしれない。 誰かに憎しみをぶつけ、感情を外に吐き出さなければ無限に湧き上がる怒り、悲しみ、苦しみ…そういった負の感情に押し潰されてしまいそうになるから。 少なくとも、復讐に全てを捧げているうちはそういった負の感情に向き合わなくても済む。 そうする事によって自我を何とか保っていたと言われれば…おそらく否定は出来ないだろう。 でも、それでも。 ホクシアは復讐を止める事は出来ないであろう。自らの命が消える、その日まで。 理解は出来ても、心がそれを納得してはくれないから。 「…貴方の指図は受けない。私は…何と言われようと、人を憎み続ける事を止めたりはしないわ」 凛とした、一切の迷いを孕まない声が、辺りの空気を震わせる。 一方、彼女の選ぶであろう答えは最初から察しはついていたのか、矢張りといった表情で肺の奥に溜まった息を吐き出すのはクレイズだ。 そして徐に懐を探れば、何か小袋のようなものを取り出しそれをホクシアに投げて寄越した。 「……? これは…」 訝しげに小袋を見遣りつつ、恐る恐る中身を覗き込むホクシア。 彼女の視界には、妖しい光を放つ幾つもの魔石が映り込んだ。 「僕が護衛してた貴族のお屋敷から、こっそりくすねてきたヤツなんだよねーソレ。これで失った魔族達の命が帰ってくる訳じゃないけど、まぁ無いよりはマシでしょ?」 つい先程までの毅然とした態度は何処へやら、あっという間に何時ものふざけた態度に戻るクレイズ。 ちゃらんぽらんな口ぶりではあるものの、彼が投げて寄越した魔石が本物である事は、ホクシアも分かっていた。 「今回はこれで引き下がってくれない? …まぁ、此処まで言っても納得してくれないって言うなら、僕も容赦はしないけど」 2人の視線がぶつかる。 暫く沈黙が2人を包み込んでいたが、最初に口を開いたのはホクシアであった。 「…本当に食えない男ね。でも…次は無いわ」 そう言い放つホクシアの視線は相変わらず鋭く刺々しいものであったが、最初の頃と比べればほんの僅かだが柔らかさが混じっているのは気のせいであろうか。 クレイズの返答を待たず踵を返せば、近くに従えている飛行型の魔物の背中に乗り込むと、街中で暴れ回っている魔物達に指示を送った。 とたん、今まで殺戮の限りを尽くしていた魔物達がぴたりと動きを止め、先に飛び立っていった飛行型の魔物に付き従うように街から姿を消していった。 まるで嵐の後の静けさのよう。 荒れ果てた街にようやく訪れた静寂に包まれながら、クレイズは空を仰ぎ魔物達の姿を何時までも見送っていた。 「……、僕と同じ目には、遭って欲しくは無いから…」 クレイズの口から零れ落ちた本心は、誰に聞こえるでも無く辺りの空気に溶けていった。 END. ------ 天空朱雀様に相互記念コラボ小説を書いてもらえました! 天空様宅のクレイズさんとホクシアのコラボです。 復讐がテーマとなったコラボ小説です!読み応え抜群の文章 復讐を果たした先を知っているクレイズさんと、復讐を果たそうとするホクシアの会話がたまりません…!ホクシアの内面描写が的確過ぎて一人感嘆していました。 そしてクレイズさんがかっこよくてたまらないです…!! 地の文の流れも綺麗で何度も読み返していました^^ この度は有難うございました。 [*前] | [次#] |