U 「よりによって第二王子に目をつけたバカがいるようだ」 シェーリオルの部屋にあるロッキングチェアに座りながらカサネが不機嫌そうに言う。手にはシェーリオルお手製のクッキーが何枚か握られていた。ベッドに腰掛けているシェーリオルは自分の部屋を我がもののように扱われて苦笑するしかない。いつものことだ。 「そのバカはどこのだれだろうな」 「それを今から調べる」 「お前が動くなら明日にでも見つかるだろうさ」 「バカを言うな。主犯が見つかるまでお前には護衛をつける」 「は? 必要ないだろう」 「ある。特にここ数日は公務が立て込んでるだろう」 「魔導が使える。自分でなんとかできるさ」 「王族が護衛もつけずに一人で危険に対処するのは内外に見栄えが良くない」 「……何人つける気だよ」 「一人」 「一人ぃ?」 「最低一人。あとはつけられるだけつける」 「あー、そう……」 「お前も知っている人間だ」 「……まさかアーク・レインドフじゃないだろうな」 「まさか。入ってきてください」 部屋のドアがガチャリと音を立てて空いた。カサネが我が物顔でシェーリオルの部屋を使うのは今に始まったことではないが、客人まで当然のように呼ばれるとなにやら複雑な心情になる。言っても聞かないのはわかっているからシェーリオルは諦めるしかない。 「入るぞー」 第二王子の部屋に遠慮もなく無粋な声とともに入ってきたのは、黒縁眼鏡をかけた少女だった。コバルトブルーのシャツに黒いネクタイを締めているが、本来結び目が来るべきところに魔石がついているので、正確に言えばネクタイ『のようなもの』だろう。黒に金のラインが入った上着は燕尾服のような形をしているが、羽織るだけの簡単な代物だ。ボタンはなく金チェーンの留め具がボタンの変わりをしている。上着と同じ生地を使用しているアームウォーマーは中指にストラップをはめるタイプのものだ。膝上10cm程度しかないであろう黒いミニスカートには金のレースがついていた。シャツと同じコバルトブルーのニーハイソックスに黒い革靴を履いている。先日あった時はタンクトップに大きめのシャツを羽織った見慣れない服装だったのに対し、今回は町中を歩いていても不自然ではないデザインのものを身に着けていた。おそらくシェーリオルの護衛をするにあたって共に行動しても目立たない格好を選んだのだろう。 祐未 それが彼女の名前だ。 彼女はシェーリオルとカサネに対して軽く手をあげ挨拶をすると、自分の服装を見て一瞬だけ困った様に苦笑した。彼女がいつも着ているものと違うから少し抵抗があるのだろう。そしてもう一度シェーリオル達に顔を向け、メガネのつるを掴んで尋ねる。 「メガネはサングラスにしたほうがいいか?」 シェーリオルはため息をついた。 「……それが、おまえらのところの護衛の正装か?」 いや? と祐未がまた首を傾げたので、シェーリオルはまた、すこし深いため息をついた。 [*前] | [次#] |