零の旋律 | ナノ

和泉様から「口には出来ない想いを胸に」


※エレテリカ→カサネ



 ――王子に仇なす者はすべて私が消しましょう。

 その言葉を幾度聞いただろう。
 そして、その度に増す胸の痛みに気付かない振りをしたのも同じだけ。

「カサネ、先日の案件は」

「勿論、すべて滞りなく処理済みですよ」

 口元に浮かぶ貼り付けたような笑みに、エレテリカはそっと目を伏せた。
 またか、と声なき声が呟く。

「……何人殺した?」

「さあ。数える価値もありませんから」

 考える素振りすら見せずにさらりとカサネは答える。相変わらず緩く持ち上がった口の端を見つめ、エレテリカは無言のまま手招きした。
 すぐに傍へと歩み寄ってきたカサネの手を取ると、カサネは怪訝そうに首を傾げた。

「王子?」

 エレテリカは応えなかった。ただまじまじとその手を見つめる。
 一体何度この手を汚したのか。……いや、汚させたのだろうか。
 また、ちくりと胸が痛み、エレテリカはその痛みが導くままにカサネの手を持ち上げた。手のひらにそっと唇を寄せる。

「……王子、何を?」

 眉根を寄せて手を引こうとするカサネ。エレテリカは、引き止めるように一瞬だけ力を込めて、結局はその手が離れていくのを見送った。

「カサネ」

「……何でしょう?」

 そう聞き返すカサネは、常と変わらぬ様子だった。けれど、開いた一歩分の距離がすべての答えだと感じて、エレテリカは自嘲の笑みを浮かべる。
 ――俺の為に手を汚すな。
 そう命じることは簡単だ。従うか従わないかはまた別問題だとしても、日々増していく痛みが少しでも和らぐのではと。そんな安易な“逃げ”すら時折浮かんできてしまう。
 けれど。

「お前の行動は、すべて俺の為。……そうだな?」

 ゆっくりと開かれた口が紡ぐのは、正反対の言葉たち。
 元々カサネが従うわけがないことは知っていたし、何よりも僅かな安らぎの為に万が一にでもカサネを失うくらいなら、たとえ誰に恨まれ血に塗れようとも厭いはしない。そう自らを騙すことさえも容易だった。
 そんなエレテリカの思いを知ってか知らずか、カサネは婉然とした笑みを浮かべて頭を垂れた。

「勿論ですとも、王子」


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和泉様がツイッタで二次創作SSを募集していたので迷うことなく(且興奮しながら)挙手させて頂きました。

そしたらFragmentよりエレテリカ→カサネで書いていただけました…!!理想の二人が此処にいる…!と興奮が隠せません。
⇔のような雰囲気が漂うのに矢印の方向が違うが故の思いや切なさ、愛情が入り混じっていてたまりません。洗練された一つ一つの言葉遣いにもときめきます。

この度は書いて下さり有難うございます。


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