零の旋律 | ナノ

V


◇アレックス・ラドフォードは真実がいつも嘘くさいものだと知っている

「国の情報網を持ってしても捉えられないものと戦えというのは、なかなか難しいのではないかな? せめて情報源になにか心当たりは?」

 火花を散らす三人を無視して、アレックスがシェーリオルに問うた。視線を向けられた第二王子が肩を竦める。

「心当たりがあったら、とっくにあたってるさ。『裏口』にはレインドフが詳しいから、そっちでなにか有力な情報網があればと思ったんだけど」

「そうか。そういえばまだ彼らにはちゃんと自己紹介をしていなかったね」

「相変わらずアレックスは会話が飛ぶなぁ……俺の話聞いてた?」

「アルでいいよ!」

「うん、聞いてないな」

「でも突然私たちの事情を説明して信じてくれるだろうか?」

「信じてもらうしかないだろうなぁ」

 先ほどまでシェーリオルと会話していたアレックスが、くるりとアークのほうを向く。

「もう名前は知っているかもしれないが、私はアレックス・ラドフォード! アルと呼んでくれ。黒髪の少女が祐未・白井で、銀髪の少年がテオ・マクニール。直樹君はさっき自己紹介をしていたね! こことは違う世界から来たんだ! よろしく」

「そうか、いきなりそう自己紹介するか」

 横からシェーリオルが控えめに呟いた。しかしアレックスは彼の言葉を気にした様子もなく、アークの言葉を待っているようだ。なるほど、随分とマイペースなヒーロー様らしい。

「あー……俺は、アーク・レインドフ。始末屋だ。銀髪はうちの執事のヒースリアで、今買い物にいってていない双子はリアトリスとカトレア。こっちも使用人……」

「そうか! 彼女たちにもあとで自己紹介しなければいけないね!」

「……ところで、違う世界ってどういうことだ?」

「違う世界は違う世界だよ。文化も歴史も地理も文明も、住んでいる人種もこことはまったく違う場所だ。あとで証拠でも見せよう」

「ふーん……まあ、いいんだけどさ……」

「ははは! 君みたいにすぐ信じてくれる人はなかなかいないから嬉しいよ! それとも人の妄言には興味がないだけかな?」

「妄言ってはっきりいっちゃうのか」

「他人から見たら妄言だという自覚はある。私も当事者でなければ信じないだろうし」

 彼の言葉に横やりを入れたのは祐未だ。

「アルは勘でウソかホントか判断するんじゃねぇか」

 それでよく今まで生き延びたな、というツッコミをアークはかろうじて飲み込んだ。

「君のいうことならどんな荒唐無稽な話でも信じてみせるよ私は! 君が見破って欲しいウソなら見破るがね?」

「よくわかんねぇよそれ」

「君のためなら空も飛ぶし世界も救うということさ」

「……よけいわけわかんねぇよ、それ」

 ヒースリアたちが火花を散らしている横でどこまでもマイペースにアレックスは言う。

「ところでアーク君は有益な情報源に心当たりはあるかい?」

「……そうとうマイペースだな、この男……」

「ああ。ほとんど空気を読まないから気をつけた方がいいぞ。話していて疲れる」

 疲れ切って呟くアークに、シェーリオルが小さく呟いた。カサネとテオとにらみ合っていたヒースリアが、アレックスのほうをみて吐き捨てる。けれど彼の言葉はカサネに向けられていた。

「随分な妄言を吐いてる人間がいるが、あれがお前の選んだ人間か? だとしたら策士様の頭脳も随分地に落ちたものだな」

「アルでいいよ、ヒースリア君!」

「…………」

「ヒースリアが黙った……」

「うるさいですよバカ主」

 予想外の反応が返ってきた驚きのためか会話が成立しない疲れのためか、息をのんだアークに向かってヒースリアは冷たく吐き捨てる。アークも疲れる気持ちはわからないでもないので返事は苦笑のみにとどめた。
 そして本題である『有益な情報源』の記憶を辿る。

「……腕の良い情報屋なら、一人知ってるな」

「ほう。信頼できそうなら協力を仰ごうじゃないか」

「ホクートにいるんだけど、明日にでも話を聞いてこようか」

「そうしてもらえると助かる」

 アークの提案を了承したのはシェーリオルだった。彼はホクートとリヴェルアの往復に必要な金をぽんと用意し、アークにこれで行ってきてくれと告げる。アレックスが首を傾げた。

「ホクートってどこだい?」

「交易都市。港町だから、人と情報が大量に行き交う」

「どこも何かが集まる場所は同じだな」

 シェーリオルの説明に、アレックスが笑った。
 アークが金を受け取り、ホクートまでの予定をシェーリオルと話し合っていると、後ろから声をかけられる。直樹だ。

「僕も同行して大丈夫ですか?」

「べつにかまわないぞ」

 ホクートとリヴェルアの往復で戦闘になる可能性はほとんどない。ただ情報屋に話を聞いて帰って来るだけなら大した問題ではないだろうと判断し、アークは気軽に頷いたのだった。

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