零の旋律 | ナノ

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「篝火に朔夜。お前たち何をしているのだ?」

 知り合いが増えた。篝火の背後から声が聞こえてくる。身長的に篝火の方が高く、篝火が影となって見えない。近づいてきた人物が篝火の影から抜けたことで全容がわかる。真っ黒だった。

「黒……っ」

 思わず言葉に漏れてしまうほどに彼女は黒かった。黒髪黒眼までは此処では一般的な色だ。だが、服装が黒で満たされていたのだ。上から下まで黒〜薄い黒といった黒の中でも微妙な色の差こそあれ、一言で言葉を纏めるなら黒と分類される色合いで全てが纏められている。露出は顔部分と首程度。手袋まで黒くて闇夜に紛れていたらその姿を発見出来ないのではないかと思う。

「ん? お前は誰だ」
「俺は斎だよ」
「そうか、私は郁だ。篝火や朔夜の知り合いか?」

 随分と凛々しい少女だ。

「知り合いってほどでもないけど、パンに誘われた」
「パン? あぁ。篝火がパンを食べないかと誘ったのか。ならば、私も行こう。構わないよな?」

 少女こと郁の視線が俺から篝火へ移る。

「勿論、いいよ。皆でパンの美味しさを広めよう」
「そのつもりはないから安心しろ。暇だから遊びに行くだけだ」
「暇なら遊びに来るなよ」

 悪態をついたのは朔夜だ。会話の内容から随分と親しいのだろう。

「暇じゃなければいかないよ」
「つまりくんなっていってんだよ」
「ではお邪魔するか。此処で立ち話をしていてもあれだろう」
「人の話を聞け!」
「朔夜とまともに会話をすれば日が沈む」
「沈む日がないからいいだろう!」

 確かに会話していたら日が沈みそうだな、と俺は思った。ふと空を見上げる。曇天とした空。空と表現しているが、此処に空は存在しない。地上から隔離された地下の牢獄なのだから。

「おい、斎何をしているんだ? さっさとパン食べに行くぞ」

 ぼーとしていたら既に歩き出していた朔夜から声をかけられた。

「俺、一言も行くなんて言っていないんだけどね」

 そういいながらも自然と俺の脚は歩み出していた。頬が僅かに緩んでいた。
 彼らと一緒にいるのは楽しそうだな――なんて思ってしまったから。


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