第四話:二度と歯向かうことがないように 「俺は少し用があるからこの辺で失礼するよ」 そういって銀髪は第三の街支配者を片手に銀色の粉を散らし消えた。誰も止めようとはしなかった。そこから先、彼の末路がなんであろうと、誰も何も――。 数十分後栞は目を覚ました。目を覚ました時は眼前に朔夜がいた。怪我をしているだろうに、朔夜は自分が目を覚ますまでこの場から動かないでいてくれたのか、温もりを感じる。 「朔……。それに水渚、どうしたの?」 「どうしたのってねぇ栞ちゃん君大暴れしたんじゃないか」 水渚は呆れながら周辺を指差す。死屍累々の現状に栞は記憶を手繰り寄せる。確かに自分がやった。疑いも弁解の余地なく自分が殺した。 「あー、ごめん水渚。俺君にまで攻撃していたよね」 あの時は怒りで何もかも許せなかった。罪人を。朔夜を傷つけたものを。 目にいる存在全てが敵にしか見えなかったのだ。 「いいよ、銀髪が全て僕に来る攻撃を引きうけてくれたからね。この怪我は栞ちゃんのせいじゃないし。でも偶々僕が現れたからそこまでの大事に至らなかったんだよ。まったく殺しすぎ」 「ごめん。でも許せなかったんだよ。朔を傷つけたのが」 そして許せないモノはまだ残っている。 「ねぇ銀髪は?」 「用があるっていって何処かにいったぞ」 「そう、ごめん朔ちょっと俺も用があるから朔と水渚はどっかで休んでいて」 「ちょ、まて!」 朔夜の制止空しく栞はその場から消えた。 「全く、銀髪の銀色の粉といい、栞ちゃんの影といい、便利だよねぇ二人は。移動能力が備わっているんだから。僕も沫で移動出来ないものか」 水渚は栞が何処に行こうとしているのか見当がついた。また朔夜も。だからこそ朔夜は止めたかった。 けれど制止は無駄だった。 「何、朔が気にする必要は何処にもないでしょ?」 狂っていても、壊れていても、それでも――。 「僕らが例え狂気でも、なんでも僕らはこの土地で育ったんだから」 例え育ったのが此処じゃなくても 例え生まれたのが此処じゃなくても 「朔は、朔で。僕は僕。栞は栞」 水渚は満面の笑みで微笑む。 +++ 足音を響かせてやってくる音が一つ。 銀髪は目の前の男の姿をただ淡泊に冷淡に冷酷に見ていた。 もはや壊れてしまった。痛めつけたその姿は悲惨なものだった。けれどそこに何の感情も抱かない。 「栞、目を覚ましたんだ」 足音の主に対して言葉をかける。 「うん。ごめんねぇ。俺なんだかマジギレしていたみたいだね」 「水渚には感謝してね」 「わかっているよ。……で、そいつどうするの?」 目の前の惨状を見ても心が動かされることはなく、栞は冷酷な瞳で彼を見据える。 「壊れちゃった」 ただひと言銀髪は告げる。 「そう、なら殺さなきゃ」 ナイフを片手に栞は一歩一歩近づく。 「別に殺す必要はないけど?」 「何を言っているの。朔を傷つけたんだから、殺さなきゃ。殺さないと二度と同じことをくり返せないようにね」 狂気を含んだ笑み。 「じゃあ、さようなら」 同情など何もなく、ナイフを掲げ刺し殺した――。 END [*前] | [次#] TOP |