V 栞の手に握られた鋭利な影のが水渚に降りかかるが、それが水渚を貫くことはなかった。光を通さない影とぶつかるは白銀のサーベル。 影が変わる。刹那、銀髪は胴体から真っ二つに裂ける。血が世界を彩る。 けれど、銀髪が殺されることはない。すぐに元通りの形に戻る。何事もなかったかのように。 水渚への攻撃は全て銀髪が受け止めていた。水渚の沫は栞まで届かない。沫で栞を囲んで逃げ道をなくしても、刹那栞は別の場所に移動してしまう。 「ちぃ」 水渚は栞から一定の距離を保つのを止めた。このままでは埒が明かないからだ。 沫は水渚を守るように水渚の周りに集まる。栞の攻撃の手が近づくが、水渚はそれを全て銀髪に任せ、自分は無謀とも思える突撃をした。 そして――栞の目の前についた時、自身ごと沫を散らせた。 「包囲月白」 周囲が月白に彩られる。栞と水渚はその中心にいる。次第に周囲の色合いは元の色に戻る。 水渚の前には銀髪が銀色の粉を散らしながら立っていた。栞は水渚の術をもろに受けたのだろう、その場に無数の傷を作りながら倒れている。 死んではいない。気絶しているだけだ。 一方銀髪も水渚の最後の攻撃は広範囲過ぎて全てを守り切れなかったのだろう。水渚の服は所々裂け、怪我を負っている。水渚の被っていた帽子は後方に飛ばされていた。 「全く、栞ちゃんは厄介すぎるよ」 息を整えながら安堵する。朔夜が足を引きづりながら近づいてくる。周囲は死屍累々の惨状だ。 それはこの短時間でどれほどの殺戮を栞が行ったのかを示していた。 「全く、栞の馬鹿がっ。そこまでしてくれなくていいんだよ」 歩く度に痛みはあるが――構わなかった。栞の元へたどり着き倒れている栞を抱きしめる。 「暫くしたら目が覚めるでしょ」 水渚は地面に服が汚れるのも構わず座る。立っているのは疲れた。 「有難う、水渚」 「どーいたしまして。僕が言うのもあれだけどさ、栞ちゃんをマジギレさせる輩は馬鹿すぎるよ。朔を誘拐した輩は酷い有様だね」 死屍累々の中には一撃で殺された罪人と、痛めつけられた罪人の痕跡があった。 「まぁ、朔をそんなに怪我した輩だからその分の代償ってことで」 そうして水渚は締めくくった。 「……」 朔夜は何も言わない。 [*前] | [次#] TOP |