T 朔夜と銀髪の空間を眺めるだけならば、和やかな雰囲気だがしかし視線を少しでもずらせばそこは殺戮の海だ。 第三の街支配者についた罪人達の大半は既にこと切れている。建物が崩壊したことによって外が見える。外には罪人がいる――栞の殺戮の刃が他の罪人達へ襲いかかる。 断末魔は悲鳴は叫ぶ声は懇願はやまない。 「っ、栞! 何をしているんだ!」 彼らは朔夜誘拐には関係ない罪人だ。朔夜は叫んで止めようとした。しかし栞が朔夜に優しい笑みを見せる――死の大地と化したこの場所で。 「何をいっているの、こいつらは罪人だよ? 犯罪者だよ。これから先、朔を傷つける 可能性があるのなら、今此処で殺してしまえばいいじゃない。そうしたら、朔を傷つけるものなんて、だーれも、いなくなるんだからね」 人を安心させる柔らかな微笑みは歪んでいた。猩々緋の赤い瞳が罪人を捉える。それは死の宣告に等しい。 転瞬、沫が無数に現れた。沫が弾ける度に分裂して増えて行く。見なれた光景に栞の手が一瞬だけ止まった。 「……丁度いい」 銀髪がその様子に呟いた。 朔夜、銀髪からはその姿がはっきりと見え、栞の背後から現れたのは棒付き飴を舐めていた。羽飾りのついた白菫色の帽子、黒いローブのような上着に、下は砂色のコートを着ている。さらにその下は白と黒のボーダー。露草色の髪の毛は短く肩までで切りそろえられている。灰白色の瞳が怪訝そうに現状を見ている。 遠くから聞こえた悲鳴の数々に何事かと思い、訪れた。そして時間を作ったのだ。罪人達は一瞬の時間を見逃すことなく全速力で逃げる。 「水渚――なんでとめるの?」 その人物――水渚は棒付き飴をかじって食べきる。 「なんでって言われても。流石にこの場を見たら僕だって止めるよ。栞ちゃん、いくらなんでも虐殺しすぎ」 「朔も水渚も不思議なことばかりいうんだねぇ……いいじゃないか、どーせ罪人なんだから朔に手を出したなら、朔に手を出す危険性があるなら、全員殺してしまえばいいんだよ。あはははははっ」 狂気を振りかざし、笑う。 「あちゃー、もしかしなくても栞ちゃんマジギレしちゃってんだ」 「というわけで水渚、これ以上死人が増えないように栞を止めろ」 帽子に手を当てている水渚の隣に現れた銀髪が告げる。 [*前] | [次#] TOP |