第三話:影の殺戮 「ぎゃあああああああああっああ」 「あがあがああああああ」 断末魔がこの場所に響き渡る。歪なハーモニー。 ――朔夜を傷つけたこいつらを俺は許さない。 完全に切れた栞が罪人を殺戮している光景だ。 態と栞は相手一撃で死なない場所を選んで攻撃をしている。だから罪人は痛みに泣き叫ぶ。殺されない痛みを味わないながら、希望なく最後まで弄ばされ殺される。 「あははははっ何を逃げているんだ? 朔を殴っただろう? 朔に怪我をさせただろう? 朔を誘拐しただろう? だったら俺もお前らを苦しめて苦しめて――殺してやるだけだ」 猩々緋の瞳は狂気に彩られる。 罪人たちは逃げようとする――だが、それを許さないとばかりに栞は建物ごと破壊した。 「栞流石にやり過ぎだろ……。朔夜、平気か?」 銀髪は痛みに喚く第三の街支配者を五月蠅いと気絶させて乱雑に地面に投げ捨てた後、朔夜に手を差し伸ばす。 銀の粉によって朔夜を捉えている鎖を破壊する。伸ばされた手に朔夜は掴まり、覚束ない足取りで立ち上がる。 叫べないように巻かれた布を外してもらうとようやっととれる新鮮な空気に数度深呼吸をする。 「あぁ……助けに来てくれて有難う」 破壊された建物はコンクリートの破片が宙を舞う。そして――外の景色が一望できるようになっていた。 尤もいくら切れていたからといっても栞は建物全てを崩壊させたわけではない。銀髪と朔夜が傷つかないように考慮していた。 だが、血走ったその瞳で目の前の罪人たちを殺し続けているのには変わらない。 一撃で相手を殺せるだけの力量を持ちながらも、弄び殺す。笑っていないのに笑い声が聞こえるようだ。 「栞。止めろ!」 その惨劇に思わず被害者であるはずの朔夜が叫ぶ。一瞬だけ栞は手を休める。 「何を馬鹿なこといっているの。こいつらは朔を傷つけたやつらじゃないか。朔が庇う必要なんて何処にもないよ。もう二度と朔に手を出せないように、殺してあげるから、もう少し待っていてね」 「栞……」 朔は栞が完璧に切れていることを察する。こうなってしまえば栞は止められない。 「どうしよう」 朔夜は銀髪に問う。この罪人の牢獄で栞を止められる数少ない人物の一人にして一番確実性の高い人物だ。 「といっても死なないだけの俺だと栞の殺戮を止めるのは難しい。それに気にする必要はないだろう。朔夜をあいつらは傷つけたんだ。自業自得だ」 「でもっ」 「だから、朔夜は何も気にしなくていい。此処は元々罪人の牢獄、あいつらは全員犯罪者だ。気をつかってやる必要があるんだ?」 諭すように、ゆったりと朔夜に語りかける。朔夜は言葉に詰まって何も言えない。 「だから、朔夜は安心して過ごせばいいんだよ、俺は――お前の前からいなくなったりはしないから」 朔夜の髪の毛をすく。滅多に手入れをしない髪は本来なら痛んでいるはずだが、朔夜の髪質は手入れをしなくても、その麗しさを保っていた。絡まっていた髪同士も、銀髪は数度すくと綺麗に解ける。 [*前] | [次#] TOP |