零の旋律 | ナノ

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「そう、なら殺せば? ――殺せるのなら」

 銀髪は普段所持しているサーベルをベルトから外し地面に落す。
 一片の迷いもない足取りで一歩一歩近づいていく。そこには何の表情もない。無表情だ。その様子に、その不気味さに気がつけたものがいたら別だが意気揚々としている彼らが気づけるはずもなく――第三街支配者は容赦なく銀髪の心臓を狙い剣を刺した。
 銀髪は吐血する。そして支配者が剣を抜くとそのままあっさりと地面に倒れ伏した。

「あっさりしやがって」

 予想より簡単に、何の抵抗もなく何の抗いもなく殺された姿にこんな奴が今までこの牢獄を支配していたのかと苛立ちが募る。
 目の前に残るのは、朔夜より少し年齢が言っているだろうが、まだ少年の域を超えない黒髪の人物だ。

「どうします? あそこの少年」

 罪人の一人が支配者に尋ねる――口元が緩んでいるを隠そうともしないで。
 下衆な笑いをしているものもいる。勝利の歓喜に酔っている。
 盲目的に勝利を確信した彼らには何も“見えない”

「勿論、殺せばいいだろう? あ、いや待て。なんかつごーのいい隷属にするってのもいいな」

 はははっといって笑う。笑う。笑う。笑う。笑う。耳触りな声で。音で。
 栞は表情を先刻から一切変えない。
 銀髪が殺されても尚。驚きの表情さえ見せない。それは朔夜も同様だった。

「じゃあ、適度に痛めつけてから都合のいい道具にしましょーや。この街で少年程度の年齢って珍しいですし、色々使い道ありますでしょうし」

 鉈を持って栞に近づく罪人――栞の目の前に近づいた時、全く動作をしない栞に対して恐怖に足がすくんで何も出来ないと勘違いした罪人は下品な笑みを隠さないままに鉈を振り上げた。
 転瞬罪人の腕が吹っ飛んだ。一刀両断。骨をも切断する絶対的な殺傷能力。噴水のごとく血が噴き出す。
 何が起きたか理解できない罪人は理解するよりも先に全身に痛みが迸り、悲鳴を上げるよりも早く絶命した。

「な、何が!?」

 誰もが状況を理解出来なかった――少年が何かをしたこと以外は。おぞましい悪寒が迸る。
 漆黒の髪に猩々緋の瞳を持つ少年が何かを仕出かしたその事実がやけに恐ろしかった。
 少年――栞は口をゆっくりと開いた。

「俺は普段、他人を殺すのは嫌いでね……殺さないんだけど。でも、君たちは生かしておこうって全く思えない。だから全員死ね」

 淡泊に告げられた言葉に、一瞬怯む罪人たちだったが、所詮多勢に無勢そう判断したのだろう。
 武器を持ち栞に近づこうとする。その時聞きなれていながら、聞き慣れていない声が聞こえた。

「首謀者だけは殺さないでよ。簡単に殺すとか――つまらないよ」

 罪人に対してではない、栞に対しての言葉。


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