零の旋律 | ナノ

第二話:殺せるのならば


 罪人の牢獄第三の街は、罪人の牢獄にある始まりの街の一つだ。
 街の特色としては研究者や術者が集まりやすく、赤を中心に独特に様々な物が合わさって出来た建物が目立つ。
 瞬間移動にも等しい力で栞と銀髪はあっと言う間に第三の街に辿り着いた。
 二人が現れた場所は第三の街支配者が住居としている場所だ。第三の街の真ん中にあり権力を示すかの如く、広々としている。

「朔は無事だろうか?」
「少なくとも俺が行くまでは命の保証はあると思うけれど」

 そうでなければ人質としての価値は成り立たない。死んでしまえば意味がなく、生きているからこそ意味をなす。
 しかし、だからといって楽観視出来ることでもない。此処にたどり着くまでに三時間少々の時間を有してしまった。朔夜に何かをするには充分過ぎる時間だ。
 栞は内心焦りと苛立ちそして後悔があった。もっと自分が早く朔夜の危機に気がつけばよかった。もっと早く――否、朔夜の自宅まで迎えに行けば良かったと。
 だが、後悔した所で過去に戻れるわけではないと、その思考を打ち切る。
 重厚な扉を蹴飛ばすような乱雑さで開けると、すぐ視界に朔夜の姿が映った。

「朔!!」

 栞が名前を叫ぶ。その相貌は鋭く周りの罪人たちを睨む。

「お前ら……!」

 栞の瞳は徐々に殺気で彩られていく。

「……朔夜を誘拐したのは、俺を失脚させるためかな?」

 比較的冷静な声で銀髪は第三の街支配者に尋ねる。げらげらと下品な笑い声を荒げながら第三の街支配者は意気揚々と答える。

「当たり前だろ。お前にとってこいつは息子のようなものなんだろ? なら一番人質として有効活用できるじゃねぇかよ」

 四十近く恰幅のいい体型の支配者は下品に笑う。
 そう、朔夜を誘拐した理由は朔夜が人質として有効であるから。何故ならば朔夜にとって銀髪とは育ての親であり、銀髪にとって朔夜は息子のようなものだからだ。
 その事実を知っているからこそ、第三の街支配者は朔夜を人質にして自分が罪人の牢獄支配者へなるための駒にした。
 真っ向勝負で挑むのは馬鹿がすることだ、そう笑って別の道を選択した。

「……だからといって朔夜を痛めつける必要は何処にあるんだ?」

 なおも冷静に銀髪は問う。
 目の前に鎖で囚われた朔夜の表情は何処か虚ろで、身体のあちらこちらからは出血が見える。服もすでにボロボロだ。真っ白な髪の毛は元々のひと房の赤メッシュを除いて、まだら模様の赤が見える。
 すでにくすんでいる色もあり、誘拐されてすぐに殴られたことが分かる。

「下手に暴れられたら困るからに決まっているだろ?」
「火に油を不必要に注ぐ必要性は何処にも感じないんだけどね」

 嘲笑、侮蔑、憐憫、そんなものを含めたような笑みを銀髪は見せる――隣の少年に僅かに視線をやりながら。

「そうか? お蔭でこいつは大人しかったぞ」

 げらげらと耳障りな音が響く。

「……で俺をどうしたいの? やっぱり殺したい?」
「当たり前だろ? この牢獄の支配者になりかわってやるよ、そして俺たちの楽園にするんだ」

 その言葉に第三の街支配者へ望んでついただろう罪人達は羨望の眼差しを向けている。両手を胸元で握り締めて何度も深く頷いているものや肩膝をついているものもいる。
 警戒は解いていないものの、朔夜を人質に取っている事実があるが故の余裕の表れがあるのだろう。


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