零の旋律 | ナノ

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 湿った音。水が地面を跳ねる音。奏でる不協和音。漆黒の闇。目元を布が覆い隠す。何も見えない。手首にから伝わるのは冷たい金属。
 此処は何処だ、少年は考える。しかし、いくら思案しようにも視界は奪われ、手首を繋がれた状況ではどうにもならなかった。少年の限られた情報で整理するまでもなく、この状況は危機的状況だということだけは嫌というほど理解出来る。
 突然の出来事だった。普段は引きこもりの少年が、親友との約束のために外出した時のことだ。
 数人の集団が現れた。少年はこの手の輩には慣れていた。此処は罪人の牢獄だからだ。
 だから、普段と同じ輩だろうそう判断した。しかし、その判断が問題だった。
 何が起きても不思議ではない罪人の牢獄で“普段と同じ”なんて考えは甘い考えで油断大敵だ。
 一つの油断から足元を掬われて、絡め取られることなど、それこそ“日常的”だ。
 だからこそ、判断を間違えた少年に訪れた結果はこれだった。
 相手の意図は不明だ。何が目的で少年を攫い拘束しているのか、甚だ理解できない。
悲鳴をあげて助けを求めようにも、口にも布が巻かれている。息をするのもやや苦しい。布が濡れた感触に少年は気持ち悪さを覚える。
 辺りは誰もいないのか物音も話声もしない。静かな空間が少年を恐怖に追いやる。


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 雛罌粟との会話を終えた後、銀髪の青年は街を闊歩していた。
 相変わらず、此処だけは普遍的に治安がいいと感想を抱いていると、見知った顔の少年が此方へ向かって走ってきているのが視界に映ると同時に、その少年は銀髪の前に姿を現した。

「栞?」

 漆黒の髪を揺らしながら肩で息をしている。全力疾走していたのだろう。

「久しぶり」
「どうした?」
「あのさぁ……朔を見なかった?」
「朔夜を? 見ていないけど」
「今日さ、此処の噴水前で朔と合う約束をしていたんだ。けど、二時間待っても一向に現れないから心配になって朔夜の自宅まで行ったんだけど、朔は家にもいなかったんだ」

 栞と呼ばれた少年は期待と希望を込めて猩々緋の瞳が銀髪を見上げる。
 しかし、銀髪は首を横に振る。栞の期待には残念ながら答えられない。何故ならばつい今しがたまで雛罌粟の所にいたのだ。

「そっか。有難う。それにしても朔は何処へ……」
「確かに気になるな。朔夜が栞との約束をすっぽかすはずがないし……朔夜を探すの、俺も手伝うよ」
「有難う。じゃあ俺は第一の街で情報収集するから何かわかったら教えて」
「わかったよ」

 銀髪が承諾すると、栞はお願いねと口を開きその場から消えるようにしていなくなった。


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