零の旋律 | ナノ

第一話:誘拐


 ――いくら君が悲鳴を上げたところで、俺がそれを止めてあげる意味はないだろ?

「ぎゃああああぁああああぁあぁ」

 悲鳴が轟く。けれど“彼”を助けてくれる味方はこの場に誰一人としていない。
 この場にいるのは彼の敵だけ。なおも響く悲鳴は止まることを知らない。
 断末魔にも似た悲鳴と共に、唐突にそれは止んだ。
 一気に静寂な空間が暗闇の中で訪れる。

「あぁ、壊れたか――まぁそうしたから当然だけど」

 何の感慨も抱かずに暗闇を照らす灯りに映る銀色は椅子に腰かけ頬杖をついている。
 青き眼は狂気の色を既に壊れてしまった彼に移す。
 壊そうとして、壊れるようにして――壊す確固たる思惑があって扱ったのだから彼が壊れてしまうのは当然だろう。
 銀色の彼がいるそこへ、足音が一つ響く。


+++
 罪人の牢獄第二の街にある一室で少女は言った。

「最近、第三の街支配者がお主になり替わろうと愚論しておるぞ」

 正面に座っている銀髪の青年に向かって、淡々と告げる。

「らしいね。その話しは俺も聞いたけど。下らない」

 銀髪の青年は冷笑しながら切り捨てる。
 どれだけ下剋上を企てようともそれは“失敗しかしないのに”哀れなものだと嘲笑う。
 此処罪人の牢獄は一筋縄ではいかない、だからこそ第三の街支配者が罪人の牢獄支配者へ慣れる可能性は万に一つもない。そもそも情報が露呈している時点で、その狙いは既に終わっているに等しい。

「まぁ我も同意だ。そもそもお主以外に支配者に成れる存在は限られておる。あの男は支配者に成れる器でしかないからの」
「だろうね」
「しかし、我としては成功するか失敗するかは関係なく不要な争いごとは避けたいものでの。だからこそ、此処にお主を呼んだ」

 此処は罪人の牢獄第二の街支配者の自宅だ。そして、支配者は銀髪の青年の眼前にいる十代前後にしか見えない幼い少女だ。

「だろうね。事が発展したらしたらで、面倒だ。俺としても不要な面倒事は避けたいね――折角舞台を整えている途中なんだし」

 悪人にこそふさわしい笑みを浮かべて、罪人の牢獄支配者である銀髪の青年は対策を脳裏に浮かべる。

「我の手が必要であれば貸すが故に、何かあれば呼べばよい。我の話は是で終わりだ」
「態々呼んでくれて有難う」

 第三の街支配者へ向ける残酷な表情とは違い、第二の街支配者雛罌粟へ向ける笑みは優しさに満ちていた。


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